Environment

ライフサイクルから見る
食品のサステナビリティ

近年、食品をとりまくサステナビリティの社会的価値がより一層認識されるようになり、その解釈や測定方法について議論や研究が蓄積するとともに、それらをブランディングとして活用する潮流が見られています。本記事では、食品のライフサイクルの各段階にかかる環境負荷の事例及びブランディングの可能性についてご紹介します。

サステナブルな食品に関する判断基準と表示ルール

多くの消費者が、環境に配慮した食品選びを志向しています。2023年にWorld Economic Forum に掲載された記事によると、消費者の65%がサステナブルで社会的責任のある生活を支援する製品を求めているとされています(*1)。また、2023年のKearneyの2023年Earth Day調査(米国 1,000人対象)では、42%の消費者が、食品を購入する際に「常に/ほぼ常に環境への影響を考慮している」と回答しており、前年と比較した際にも増加傾向が見られています(*2)。

認証ラベルは、食品のサステナビリティの取り組みを示すツールとして広く普及しています。しかし、評価項目や基準が多種多様であり、ラベル間の比較が難しいことから、サステナビリティに関する活動を通じたブランディングへの効果が検証しにくい側面があります。(※認証ラベルについては、弊社の過去の記事をご参照ください。)

そのほか、環境に配慮してつくられた食品や、そうした印象を想起させる商品を表す用語として、「エコ」「SDGs」「グリーン」「エシカル」「オーガニック」などが近年広く使用されるようになりました(*3)(*4)。

これらの用語は、サステナブルな購買選択をする上で参考にされますが、実質的な環境負荷の低減には貢献しない場合も指摘されています。(※グリーンウォッシュについては、弊社の過去の記事をご参照ください。)

環境省の『環境表示ガイドライン』は、環境に関する自己宣言について、以下5項目を要求事項として定めています(*5)。

  1. あいまいな表現や環境主張は行わないこと
  2. 環境主張の内容に説明文を付けること
  3. 環境主張の検証に必要なデータおよび評価方法が提供可能であること
  4. 製品または工程における比較主張はLCA評価、数値等により適切になされていること
  5. 評価および検証のための情報にアクセスが可能であること

食品が環境に与えるインパクトは、生産、加工過程だけでなく、流通、販売、消費、廃棄過程等の条件に大きな影響を受けるため、特にガイドラインの3〜5つ目に対応するためには、定量的、全体性、客観性の確保が重要となります。 本記事では、食品の生産、流通、消費・廃棄の各過程における環境負荷を踏まえ、サステナビリティに関する活動を通じたブランディングを図るアプローチをご紹介いたします。環境影響評価によって視覚化(見える化)される食品間の異なる環境インパクトと、それに基づいた食品のサステナビリティに関する取り組みの可能性を探ります。

食品のライフサイクルと環境負荷

ライフサイクルアセスメント(以下「LCA」)は、原材料の調達から製造、加工、流通、販売、廃棄にわたる製品のライフサイクル全体を対象とした環境影響評価手法の一つです。

LCA では、一製品のライフスタイルにおける各ステップをモデル化することで、生産にかかる資源やその過程で発生する廃棄物、排出物の重量を推測し、LCA独自の影響領域の指標から環境負荷を算出します。

これらのデータは、製品の環境宣言や認証制度などによるマーケティング戦略に活用されます。以下では、食品を対象としたLCAの各過程の傾向やその解釈を説明いたします。

生産過程

栽培方法は、農作物の環境負荷を規定する要素の一つです。

たとえば、冬季の果菜類やみかんの温室栽培を参照すると、施設の温度維持に燃料を要することから、同一品目の露地栽培の2〜20倍の温室効果ガス(以下「GHG」)を排出するという研究報告があります(*6)。

スペインの研究者らは、地中海沿岸の条件下でのミニトマト生産における環境負荷を、温室、露地、スクリーンハウス(骨組みを高密度ポリエチレン製のスクリーンで覆ったもの、今回の研究では屋根部分に白黒のスクリーン、側面に黒いスクリーンが使用)の3つの栽培手法から測定しました。研究の結果は、温室栽培が、残りの2つの栽培手法と比べ、地球温暖化、酸性化、海洋富栄養化、金属枯渇、化石燃料の枯渇の5つの観点において環境負荷が最大であるというものでした。ただし、農薬による毒性の観点では、温室栽培が最も負荷が低い結果となりました(*7)

流通過程

<輸送距離>

多くの食品は、グローバルなサプライチェーンを経て最終消費者に届けられます。特に加工食品は、畑、工場、流通センター、店舗などいくつもの地点を経由するため、長距離の移動を伴います。

食料の輸送量に輸送距離を掛け合わせた指標として「フードマイレージ」があります。輸送距離が長いほど多くの燃料を消費することから、フードマイレージは食品の長距離輸送に伴う環境負荷を示す概念として参照されています(*8)。

一方で、輸送距離に着目した際に大幅な削減を期待できるとして注目される「地産地消」ですが、輸送距離を抑えられるからといって地産地消が必ずしも環境負荷を抑えるとは限りません。たとえば、イギリス国内でいちごを生産するよりも、スペインから輸入する方が、輸送に伴うGHG排出量を考慮しても、ライフサイクル全体における環境負荷が少ないという研究結果があります(*9)。

したがって、温室栽培のように直接的に、あるいは窒素肥料を多く投入して間接的に、大量のエネルギーを投入して収量を増やすのではなく、生産性の高い地域から調達することにメリットがある場合があります。どの観点から環境負荷を評価するかによって一製品のサステナビリティの解釈が異なる可能性に注意し、多角的に環境負荷を評価することが重要です。

<輸送手段>

上記のフードマイレージでは輸送距離に着目される一方で、輸送手段の違いは考慮されません。これに対し、各輸送手段が運んだ「食品の量(質量)」と「輸送距離」を掛け合わせたトンキロを基準(総量を100)として比較した研究によれば、世界全体の食品輸送では、0.16%が航空輸送、58.97%が海上輸送、30.97%が道路輸送(トラック・自動車等)、9.9%が鉄道輸送によって行われています(*10)。航空輸送は同じトンキロあたりで海上輸送の約50倍のGHGを排出する(*9)現状がありますが、空輸される食品は、腐敗しやすい青果物など付加価値の高い少量であり、重量の大きい食品の多くは、排出強度の低い海上輸送や陸上輸送によって大量に運ばれています。その結果、ライフサイクル全体の温室効果ガス排出量を100とした場合、輸送に由来する排出量は平均して約6%にとどまります。これは、輸送距離そのものではなく、食品システム全体における輸送工程の排出寄与割合を示した数値なのです(*11)。

<輸送形態>

国内での食品の流通過程における環境負荷については、青森県八戸港から東京築地市場に異なる形態で輸送されるイカを対象に、イカの単位質量当たりの二酸化炭素の排出量を調査したものがあります。同研究は、活魚輸送の環境負荷が大きいほか、逆に凍結輸送は包装資源や輸送効率などから、冷蔵輸送よりも環境負荷を抑えた手段であることを発表しました(*12)。

また、緩衝包装の使用が、輸送時に損傷するイチゴを減らし、損傷した分のイチゴの追加生産を抑制することに着目した調査は、ライフサイクル全体から見たとき、緩衝包装を使用したイチゴの方が、それを使用しないイチゴより環境負荷が低いことを明らかにしました。同研究は、包装の不使用が環境負荷の低減に貢献するとは限らず、製品のライフサイクルを包括的に見ることの重要性を示唆しました(*13)。

消費・廃棄過程

<提供形態>

包装は、上述のように加工や流通段階において食品を衝撃や鮮度劣化から守るために使用されるほか、外食業でも多数の使い捨て包装が使用されています。いくつかのライフサイクルアセスメント(LCA)研究のレビューでは、再利用可能な容器(例:ガラス瓶やプラスチッククレート)が、同等の単回使用容器より最大85%、温室効果ガス排出量を減らす可能性があると示されています(*14)。

ただし、複数回利用可能なプラスチック容器については、単回使用包装と複数回利用包装をライフサイクル全体で比較する必要性を示しており、寿命・原材料・廃棄処理など、環境及び費用などの多くの要素を含めた包括的評価が有用であることが示されています(*15)。さらに、外食企業は、消費者の志向を反映させるべく、より環境負荷の低い包装方法を採用している流通業者を意図的に選ぶことも考えられます(*16)。

<食品ロス・廃棄>

2022年には、世界で10億5000万トンの食料が廃棄される一方で、7億8300万人が飢餓に直面しました。UNEPの発表によると、2022年は消費者が入手可能な食料の19%が小売・外食産業・家庭レベルで廃棄されました。また、食料ロスと廃棄物は、年間の世界温室効果ガス排出量の8~10%を占め(航空部門の総排出量の約5倍)、世界の農地のほぼ3分の1を消費し、生物多様性の著しい損失に寄与します。膨大な食料廃棄は、食料生産の各過程で投入された肥料・飼料、土地、水、人間の労働力などの全ての資源を無駄にすることで、困窮者への食料供給機会を逃すだけでなく、重大な環境負荷をもたらしていると考えられるのです(*17)。食品ロス・廃棄の削減目標を設定するにあたり、廃棄する食品の重量だけでなく、環境負荷を考慮することが重要です。

食品の廃棄にかかる環境負荷をライフサイクル全体から測定すると、果物や野菜は食品廃棄物の重量ベースでは大部分を占めるカテゴリーですが、必ずしも食品廃棄物の重量とそれに付随するGHG排出量は比例しません。肉類などの動物性食品は、果物や野菜と比較して廃棄重量は少ないものの、最も大きなGHG排出量を伴います。(*18)

このことから、廃棄物の重量とその処分費用の削減ではなく、GHG排出量削減の最大化を目的とするならば、環境負荷の高い肉や空輸の輸入製品などを含む食品カテゴリーからの食品廃棄物の削減が優先されるべきだと考えられています(*19)。

LCAに基づいた食品のサステナビリティの取り組み

食品の環境負荷の数値化や製造条件の比較に取り組むLCA研究が進んでいます。LCAは、企業がサステナビリティに関する判断をする上で、重要な意思決定の材料となり、幅広い要素間のトレードオフを考慮することに役立ちます(*20)。

他方、開発、調達、製造から、流通、マーケティング、消費、廃棄に至るまで、バリューチェーン全体を通して一製品の環境負荷を把握するにあたり、膨大なデータの収集と分析の時間を要します。特に農業・食品分野においては、品目数や単価、複雑なサプライチェーンなどが、LCA実施の障壁となっています。

それだけでなく、サステナビリティに関する活動を通じたブランディングにおいて、LCAが扱う環境負荷以外の観点も重要です。たとえば、上述したイカ流通のLCA研究は、流通形態に規定される二酸化炭素の排出量と、輸送されるイカの品質がトレードオフの関係にあると述べしました。流通のサステナビリティ向上を図る上で、環境負荷だけでなく、品質の定量評価を実施が有効的です(*21)。

フランスの小売り大手は、製品の環境負荷を、生産地、バラ売り・量り売りの有無、リサイクル可能な包装、輸送手段、認証の有無など、複数の基準から評価し、それらを統合した指標であるEco-scoreとして提示する試験導入を行いました(*22)。 この取り組みは、食品の生産地を重視する人や、包装形態・輸送手段を重視する人など、消費者の間で環境配慮において重視する基準が異なるという実態を背景としていることが示されています(*23)。

この事例は、品質や栄養といった製品そのものの情報に加え、食品のバリューチェーン全体における環境影響を、複数の要素を統合した指標として提示することが、消費者にとって価値を持ち得ることを示唆しています。

サステナビリティを通じた消費者へのブランディングの今後

国際的に、食品の生産過程だけでなく、それ以降の過程も含めたライフサイクル全体における環境影響が、食品のサステナビリティを評価する主軸となりつつあります。より柔軟な形で多様な観点から製品の環境影響を数値化・表示することが、消費者の幅広い関心に沿ったブランディングの推進に貢献します。一方で、LCA実施に要する膨大なコストや時間、複雑な抽出データからの効果的な情報提供などが課題となる可能性があります。

弊社サービス「Myエコものさし」では商品のサプライチェーンごとの取り組みをライフサイクルアセスメント(LCA)に基づいて評価してスコア化を行うことで、企業のエコへの取り組みを「見える化」して消費者にわかりやすい情報にして届ける一助を担っています。

自社製品に対してLCAによる評価を得ることで、自社の製品が競合製品も含む食品市場の中で、環境面でどのような位置づけにあるかを把握し客観性をもって市場に発信することができます。

クオンクロップでは、外資系戦略コンサルティングファーム出身者を中心としたESG 経営データ分析の専門家チーム及び独自の分析ノウハウを有するシステムを活用し、各企業が「選ばれる」ために必要十分なESG 活動を把握し改善を支援する「ESG/SDGs 経営度360°診断&改善支援」や「My エコものさし」等のサービスを提供しております。

分析検討チームが社内に既にあり、ESG 経営を既に推進している企業様における分析の効率化のみでなく、ESG 経営分析のチームは現状ないものの、これからESG 経営に舵を切る必要性を感じておられる、比較的企業規模が小さい企業様に対しても活用いただけるサービスです。ESG 経営の効率的な加速のための、科学的かつ効率的な分析アプローチにご関心のある企業様は、是非クオンクロップまでお気軽にお問い合わせください。

クオンクロップESGグローバルトレンド調査部

引用

*1 https://www.weforum.org/stories/2023/01/consumer-power-net-zero-food-producer-retailer-davos23/

*2 https://www.kearney.com/industry/consumer-retail/article/-/insights/dawn-of-the-climavores

*3 https://www.weforum.org/press/2019/09/global-survey-shows-74-are-aware-of-the-sustainable-development-goals/

*4 https://www.imarcgroup.com/eco-friendly-labels-market

*5 https://www.env.go.jp/content/000390026.pdf

*6 https://www.ritsumei.ac.jp/se/rv/amano/pdf/2009KKS-yoshikawanaoki.pdf

*7 https://link.springer.com/article/10.1007/s11367-016-1225-3

*8 https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/goudou/06/pdf/data2.pdf

*9 https://www.science.org/doi/10.1126/science.aaq0216

*10 https://ourworldindata.org/food-transport-by-mode

*11 https://ourworldindata.org/environmental-impacts-of-food

*12 https://www.jstage.jst.go.jp/article/lca/14/3/14_219/_pdf/-char/ja

*13 https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010931302.pdf

*15 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0921344919301284

*15 https://foodpackagingforum.org/news/jrc-publishes-case-studies-on-single-use-versus-multiple-use-packaging

*16 https://www.mdpi.com/2071-1050/12/9/3504

*17 https://unfccc.int/news/food-loss-and-waste-account-for-8-10-of-annual-global-greenhouse-gas-emissions-cost-usd-1-trillion

*18 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S019592552100127X

*19 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0921344919301284

*20 https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/us/Documents/process-and-operations/us-consulting-enhancingthevalueoflifecycleassessment-112514.pdf

*21 https://www.jstage.jst.go.jp/article/lca/14/3/14_219/_pdf/-char/ja

*22 https://www.carrefour.com/en/news/carrefourecoscore

*23 https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2022/4d39e1472078862e.html

    Contact お問い合わせ

    会社名必須
    ⽒名
    メールアドレス必須
    電話番号
    題名必須
    メッセージ本⽂