ESG全般

グリーンウォッシュ
/SDGsウォッシュ
に求められる対応

ESG経営・ESG投資の高まりに伴って企業によるSDGs活動発信が進む中、「グリーンウォッシュ」「SDGsウォッシュ」と呼ばれる問題が顕在化しています。本記事では、グリーンウォッシュ/SDGsウォッシュに関するグローバルでの動きに加えて、企業側がそれらを効果的に回避する方法について紹介します。

グリーンウォッシュ/SDGsウォッシュとは

企業によるSDGs活動・ESG経営が進む中、「グリーンウォッシュ」「SDGsウォッシュ」への注目度が高まっています。

グリーンウォッシュは、エコをイメージさせる色である「グリーン」と上部を良くする・誤魔化すといった意味の「ホワイトウォッシュ」を掛け合わせた造語であり、企業活動が環境に配慮しているように見せかけることを指します(*1)。またSDGsウォッシュはグリーンウォッシュから派生した言葉であり、実態が伴わないにも関わらずSDGsに取り組んでいるように見せかけることを指します(*2)。

グリーンウォッシュには、

・Hidden Trade-Off(トレードオフ隠し。例:環境負荷などマイナス面に触れない)

・No Proof(根拠に欠けた訴求)

・Vagueness(曖昧な言葉の使用。例:all-natural)

・Irrelevance(SDGsと無関係なポイントの訴求。例:法令遵守等の義務遂行)

・Lesser of Two Evils(環境負荷の高い領域における訴求。例:オーガニックたばこ)

・Fibbing(虚偽の訴求)

・Worshiping False Labels(第三者認証に見せかけた自作ラベルの使用)

等、様々な種類があるとも言われており(*3)、企業は環境保全を含めSDGs活動の発信に際して注意が必要です。

EUの執行機関である欧州委員会が2021年1月に行なった調査によると、調査対象となったウェブサイトの約半数がグリーンウォッシュだと公表されました。具体的には、59%のウェブサイトが訴求の根拠を提示しておらず、42%のウェブサイトが虚偽、または欺瞞的な訴求を行なっていると判断されました(*4)。

グリーンウォッシュ/SDGsウォッシュと疑われた具体的な海外事例としては、H&Mとジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のケースが挙げられます。

H&Mのケースでは、2019年4月に発売した「H&Mコンシャスコレクション」は全てのアイテムでオーガニック・コットン等サステナブル素材を使用ししており、「Conscious」というタグを伴い展開されました。しかし、ノルウェーの消費者庁は「リサイクル素材使用量など環境上の配慮に関する説明が不十分である」として、グリーン・ウォッシュの可能性を指摘しました(*5)。

またJ&Jのケースでは、Black Lives Matter(BLM)運動へのサポートを宣言したスターバックス・マイクロソフト等の動きに続き、2020年6月に色が異なる5種類のバンドエイドの発売を公表しました。しかし、注目を集めないことを理由に2005年の複数色バンドエイド販売を停止していた事実から、J&Jは「収益性とトレンド性ありきの販売なのか」といった批判を受けました(*6)。

海外に限らず、日本の大企業もグリーンウォッシュを指摘されています。日本の政府・金融機関・企業に対して新規石炭火力発電の支援を停止するよう求めるキャンペーンを展開しているNo Coal Japanは、東京2020オリンピックの主要スポンサーである三井住友銀行やみずほ銀行が、国内外の大規模石炭火力発電所への融資を継続していると指摘しています(*7)。例えば、三井住友銀行に関して、パリ協定に関する政府方針に準じて脱炭素社会の実現を支援すると表明しておりますが(*8)、石炭火力への融資継続との矛盾がグリーンウォッシュだと疑われました。

グリーンウォッシュ/SDGウォッシュに対する規制の強まり

グリーンウォッシュ/SDGsウォッシュが問題視される中、欧米を中心に規制する動きが生じています。規制には、グリーンウォッシュ/SDGsウォッシュそのものに対するアプローチ及び新たな枠組みにより防止するアプローチの2種類が存在します。

前者のアプローチに関して、2021年4月、フランスは世界初となるグリーンウォッシュに直接的な制裁措置を課す規制法を導入し、該当企業は虚偽宣伝費用の最大80%に相当する罰金や広告およびメディアにおける訂正記事の掲載・説明文章の自社ウェブサイトへの30日間の掲載などが課される可能性があります(*9)。

またイギリスでは、消費者法制作を担う競争・市場庁であるCMA(Competition & Markets Authority)が、2021年夏に企業向けのグリーンウォッシュ回避のためのガイドラインを発表するとの声明を出しました(*10)。

後者のアプローチに関して、ESGに関する基準が数多く存在する中、標準化された統一的な基準によってグリーンウォッシュ/SDGsウォッシュを規制しようとする流れがあります。

サステナビリティ報告に関する主要5団体たるCDP(Carbon Disclosure Project)、GRI(Global Reporting Initiative)、IR(Integrated Reporting)・SASB(Sustainability Accounting Standards Board)、CDSB(Climate Disclosure Standards Board)は2020年9月、「包括的な企業報告」実現に向けた声明を発表しました(*11)。非財務報告フレームワークの乱立によるグリーンウォッシュ/SDGsウォッシュの高まりを背景に信頼性のあるサステナビリティ報告が求められる中、上記5つの基準設定団体はIFRS(International Financing Reporting Standards)基準や米国会計基準と同等水準の信頼性を有する基準・フレームワークの構築を目指しています(*12)。

また地域共同体レベルでは、欧州委員会が様々な動きを見せています。

欧州委員会は、気候変動を抑制するパリ協定とSDGsを達成するための金融政策として、EUの公式目標である2050年までのカーボン・ニュートラル実現を目指して「EUタクソノミー」を策定しました。

「EUタクソノミー」とは、環境への貢献度が真に高い企業・事業に適切な投資を行うための分類です。タクソノミー規則は、基準に照らし合わせた際に、環境的に持続可能な事業活動であるかどうかの判別と事業全体における適合事業の適合率算出・開示を求めています(*13)。

これは投融資家の資産運用と企業の設備投資を脱炭素化に集中させる他、技術的な基準を明確に数値化することによりグリーンウォッシュを排除することが期待されます(*14)。

グリーンウォッシュ/SDGsウォッシュを回避するには

取り組みが進むESG基準・指標の統一化ですが、その存在は投資家等が同じ理由で同じ株を購入することを誘発するため、行動ファイナンスの観点から市場の失敗につながるといった否定的な意見も存在します。まだ声明が2020年に発表された段階である点も考慮すると、直近でのESG基準・指標の統合による統一指標の実現は現実的ではありません。

標準化された基準・指標の活用が難しい中、企業に求められるのは「科学」に基づいたSDGs活動発信やサステナビリティ報告です。もちろんグリーンウォッシュ/SDGsウォッシュを回避するだけでは不十分ですが、本記事での「科学的」な基準は「SDGsウォッシュだと見なされない基準」を指します。

記事の冒頭で述べたとおり、グリーンウォッシュ/SDGsウォッシュには様々な種類がありますが、効果的に回避するために重要なのは、「客観性が担保されたファクト」と「基準に基づいた開示」です。

「ファクトにおける客観性」という観点では、電通が2018年6月に作成した「SDGsコミュニケーションガイド」にもあるように(*15)、「根拠がない、情報源が不明な表現を避ける」「事実よりも誇張した表現を避ける」等のポイントは当然意識することが重要です。

ファクトの客観性をさらに担保するには、他機関による認証取得や第三者保証を受けることが有効です。第三者保証の取得により、統合報告書やCSR報告書等サステナビリティ報告におけるESGデータの信頼性向上が期待されます。

KPMGコンサルティングの2020年の調査によると、同年1月時点で日経225構成銘柄となっている日本企業のうち、開示企業の61%にあたる133社が非財務情報に対して第三者保証を受けています(*16)。

基準における客観性という観点では、複数の主要な既存指標から評価されることが有効です。

主要な格付機関が提供するESG指標から評価されるべき理由は、数千社に渡る企業の相対比較に基づいていることから客観性が担保できるためです。例えば、最大手のMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)指数は世界70カ国以上の株式市場をカバーしており、2,800社以上の企業のESG格付をウェブサイト上で公開しています(*17)。

複数のESG指標から評価されるべき理由は、共通基準が存在しないが故に各格付機関が独自の基準に基づいた評価を行なっているためです。ESG指標間での評価不一致を示す代表的な例として、主要評価機関たるMSCIとFTSE Russellによるテスラの評価が挙げられます。テスラは、MSCIからESGにおいて自動車業界トップレベルの評価を受けていますが、FTSEによる評価は世界のメーカーの中でも最低水準となっています(*18)。

実際に複数の主要指標から評価されている日本企業3社の事例(一部)を紹介します。

〈花王(*19)〉

・Dow Jones Sustainability World Index, Dow Jones Sustainability Asia Pacific Index

・FTSE4Good Global Index

・MSCI ESG Leaders indexes

・Ethibel Sustainability Index Excellence Global

・Euronext Viego Eiris World 120 Index

・ECPI Global Ethical Equity Index

・FTSE Blossom Japan Index

・Bloomberg Gender-Equality Index

・MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数

・MSCI日本株女性活躍指数

・S&P・JPXカーボン・エフィシエント指数


〈富士フイルム(*20)〉

・FTSE4Good Global Index

・FTSE Blossom Japan Index

・MSCI日本株 女性活躍指数

・S&P・JPXカーボン・エフィシエント指数

・CDP水リスク

・CDPサプライヤー・エンゲージメント

・第2回ESGファイナンスアワード環境サステナブル企業部門

・SOMPOサステナビリティ・インデックス

・デジタルトランスフォーメーション銘柄

・健康経営銘柄


〈KDDI(*21)〉

・FTSE4Good Global Index

・FTSE Blossom Japan Index

・MSCI ESG Leaders indexes

・MSCI日本株 女性活躍指数

・Euronext Vigeo Eiris World Index 120

・Ethibel PIONEER/EXCELLENCE Investment Resister

・S&P・JPXカーボン・エフィシエント指数

・DBJ環境格付

・PRIDE指標

「乱立するESG指標を企業が活用する際の注意点」で取り上げたように、ESG指標は主要なものだけでも数多く存在します。故に、ベストな指標を選択するとなると、業界によってマテリアリティが異なる等、多くの要素を考慮する必要があります。

クオンクロップでは集約されたノウハウ・知見のもと、複雑に構造化された分析を効率的に遂行可能です。自社に最適なESG指標を知りたいと考えておられる場合は、お気軽にお問い合わせください。

ESG情報を自社の企業価値向上に効率的に繋げるために

本記事で取り上げたように、SDGs活動発信やサステナビリティ報告に際してグリーンウォッシュ/SDGsウォッシュを避けることは重要です。またESG経営や投資を通じて、自社の企業価値を高める機会を増やし、あるいは企業価値を毀損するリスクを低減したいと考えておられる企業は多数あるかと思います。ではどうやってその機会やリスクを低減することができるでしょうか。

まずは、その機会やリスクを正しく把握することが非常に重要になります。但し、正しい把握のためには長期的利益の観点で、自社だけではなく、他社や他業界を含めた多数のESGデータを比較分析していくことが必要になります。

他方、ESG指標は代表的なものだけでも国内海外に数十とあり、それぞれの指標で数十以上の評価項目が設定されています。また、これらの指標基準も毎年アップデートされています。従って、国内海外のESGトレンド及びそこから波及する自社への事業リスクや機会を体系的に「広く」把握し続けることは多くの企業にとって容易ではありません。

また、把握したトレンドやESG指標を自社の事業データと関連付けて定量的に考察し、自社の事業戦略に繋げる「深い」分析も多くのデータ処理や工数が必要になります。ESG指標の『E』や『S』という個別要素に目を向けても、様々な指標と計算手法があり、分析が複雑に構造化されています。

こうした「広く」「深い」分析アプローチを効率的に行うためには、各社がそれぞれで調べて対応するより、ノウハウを集約した専門家部隊が実行した方が不要な工程を削減し、また同じ工程を行う速度も速いため、極めて効率的かつ効果的となります。

本記事では1つのESGトレンド事例を抜粋して紹介しましたが、クオンクロップでは、外資系戦略コンサルティングファーム出身者を中心としたESG経営データ分析の専門家チーム及びAIを含む独自の分析ノウハウを活用し、各企業が「選ばれる」ために必要十分なESG活動量を把握し改善を支援する「ESG/SDGs経営度360°診断&改善支援」などのサービスを提供しております。

ESG経営分析のチームが社内に既にあり、ESG経営を既に推進している企業様における分析の効率化のみでなく、ESG経営分析のチームは現状ないものの、これからESG経営に舵を切る必要性を感じておられる、比較的企業規模が小さい企業様に対しても活用いただけるサービスです。ESG経営の効率的な加速のための、科学的かつ効率的な分析アプローチにご関心のある企業様は、是非クオンクロップまでお気軽にお問い合わせください。

クオンクロップESGグローバルトレンド調査部

引用元

*1

ideasforgood.jp/glossary/greenwashing/

*2

https://ethicame.com/shop/information/SDGs35

*3

https://www.ecowatch.com/7-sins-of-greenwashing-and-5-ways-to-keep-it-out-of-your-life-1881898598.html

*4

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_21_269

*5

https://www.seventietwo.com/ja/business/hmConscious

*6

https://www.eco-business.com/news/8-brands-called-out-for-greenwashing-in-2020/

*7

https://nocoaljapan.org/ja/greenwash-coal-forest-destruction/

*8

https://www.smfg.co.jp/sustainability/materiality/environment/climate/

*9

https://www.esg.quick.co.jp/research/1230

*10

https://www.gov.uk/government/news/cma-to-examine-if-eco-friendly-claims-are-misleading

*11

https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1198249_1501.html

*12

https://home.kpmg/jp/ja/home/insights/2020/09/sustainability-reporting-20200923.html

*13

https://www.csr-communicate.com/csrinnovation/20210208/csr-45514

*14

https://www.sustainablebrands.jp/news/jp/detail/1198649_1501.html

*15

https://www.dentsu.co.jp/csr/team_sdgs/pdf/sdgs_communication_guide.pdf

*16

https://home.kpmg/jp/ja/home/insights/2020/05/sustainability-report-survey-2019.html

*17

token-express.com/magazine/esg-raters/

*18

https://citywire.co.uk/wealth-manager/news/its-up-to-investors-to-choose-the-right-esg-index/a1354093

*19

https://www.kao.com/jp/corporate/sustainability/recognition/

*20

https://holdings.fujifilm.com/ja/sustainability/evaluation

*21

https://www.kddi.com/extlib/files/corporate/csr/csr_report/2020/pdf/report2020.pdf

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