ESG全般

食における
エシカル消費の拡大
と認証ラベル

消費者が各自にとっての社会的課題の解決を考慮しながら消費活動を行う「エシカル消費」が世界的に拡大しており、市場に大きな影響をもたらしています。このようなトレンドを起点として、本記事では特に顕著化する食のエシカル消費動向とビジネス機会としての認証ラベル取得について紹介します。

食品業界におけるインシデントと消費者の影響力拡大

食品サプライチェーンの透明性に対する疑念が世界中の消費者に広がっています。例えば2013年、ヨーロッパでは馬肉が混入した牛肉製品が広範囲に流通していたことが明らかになり、消費者に大きな衝撃を与えました(*1)。日本においても2007年には大手和菓子メーカーや老舗料亭で賞味期限切れの原材料使用が相次いで発覚、また中国産の冷凍餃子による食中毒事件等がメディアに取り上げられました(*2)。これにより消費者の食品サプライチェーンの透明性に対する疑念は大きくなり、このような不正が企業にとって大きな経営リスクとなりました。

一方で、この消費者のサプライチェーンの透明性に対するニーズは、法令などで定められた明示的なリスクやコンプライアンスの領域に留まらず、企業にとっては競争優位となりうる機会でもあります。その要因の一つが、エシカル消費の拡大です。

「エシカル消費」とは

消費者が持続可能性を軸に商品選択を行う「エシカル消費」は主に欧米で顕著に見られ、その消費規模の拡大により市場に大きな影響をもたらしています。

「エシカル消費」という言葉はイギリスで1980年代から使用されてきました。当時、南アフリカのアパルトヘイトやフロンガス、動物実験に関与する企業へのボイコット(不買運動)が頻繁に行われていました。このトレンドにより、1989年には世界的な倫理的消費を牽引する情報誌『エシカル・コンシューマー』(*3)が創刊され、消費行動全般を指す言葉としてエシカル消費という言葉が使われるようになったと言われています。

1980年代に生まれたエシカル消費という概念ですが、近年支持層が急速に拡大しています。この背景には2010年代に入ってからのスマートフォンやソーシャルメディアの普及により、NGO/NPO、さらには個人消費者の情報収集・発信力が大幅に向上したことがあげられます(*4)。

支持層の拡大に伴い、イギリスでは企業にとって環境や人権に配慮した持続可能性の高い商品が売り上げ増加につながっています。事実、イギリス国内のエシカル消費の市場規模は過去20年で10倍に達しています。特に食品と飲料分野でのエシカル消費は2019年から2020年にかけて約12%増加し、当分野でのエシカル消費市場は同国の加工食品・飲料市場全体の約17%に相当します。また、認証ラベルを取得した商品の売り上げも向上しており、フェアトレード認証商品の売上は2019年から2020年で14%増加し、有機認証食品の売上は13%増加していることが分かりました(*5)。以上より、イギリスにおけるエシカル消費市場は大幅な拡大傾向にあり、今や主流化しつつあると言えます。

日本における「エシカル消費」の現状

日本においても、イギリスでのトレンドを追うようにエシカル消費は拡大傾向にあります。農林水産省が日本に居住する 20 代から 60 代の男女約18,000人に対して行なった調査によると、「環境や社会の持続性に配慮した食料」への購入意向を質問したところ、全体では、「日常的に購入したい」(9.4%)又は「時々購入したい」(20.5%)の計29.9%が「購入したい」と回答しました(*6)。

また、電通による全国10~70代の男女計1,000人を対象としたアンケート「エシカル消費 意識調査2020」では、COVID-19による影響でエシカル消費を意識する消費者層が3割増加したという結果が明らかになりました(*7)。また、食品はエシカル消費による購入経験が一番高く、エシカルな取り組みへの期待値も一番高い業界であることがわかりました(*7)。以上、消費者はCOVID-19を受けてより社会的意義に重点をおいた製品やサービスに注目しており、環境・気候変動へ配慮する企業がより消費者から選ばれる可能性を示唆しています。企業はこのような消費者の嗜好の変化に対応しながらビジネスを展開する必要性が増しています。

このような消費者の嗜好の変化に対応すべく、 消費者庁では2015年に「倫理的消費」調査研究会(*8)が発足しました。調査を通してエシカルな消費行動と事業者サイドの取組を促進させる目的をもっており、今後は政府による積極的な制度設定も予想されます。

日本における「エシカル消費」の特徴

イギリスから派生し、日本においても拡大する持続可能性を追求した消費行動ですが、日本の消費者のエシカルな商品の購入条件では「価格」と「商品の透明性」、また「エシカル商品購入に伴う周囲からの評価」が重要視されています。

マーケティング調査世界大手のニールセン が世界60カ国3万人を対象にした調査によると、「サステナビリティへの配慮のあるブランド商品にはプレミアム価格を支払う」と回答した消費者は、2013 年の50%から2015 年は 66%へと増加しています。また、若い世代ではその傾向が顕著で、特にミレニアル世代では73%が「プレミアム価格を支払う」と回答しました(*8)。

一方で電通の国内消費者調査によると、持続可能性の高い商品の購入条件として、「価格が同じだったら」35.3%、「メリットがわかったら」34.5%、「自分の関心がある問題に関する商品であれば」31.0%が上位となりました(*9)。つまり日本国内でエシカル消費を促進するためにはグローバルと比較し、より商品の適正な価格設定と根拠のある説明が有効であると示唆されます。

しかし、日本においても若者層の間ではエシカルな商品におけるプレミアム価格が受け入れられつつあると言えます。国内の18-29歳の若者へ焦点を当てたアンケート調査を行ったところ、「価格が高くても環境に良い日用品を選ぶ」が55%、「価格が高くても生分解性素材・天然原料を選ぶ」が38%との結果が現れました(*10)。これはその他の世代の平均を7~10%上回っています。このことから、今後は国内のエシカル消費のトレンドとして価格より商品の透明性を重視する傾向が強くなると予想されます。

また消費行動に関連して、日本では周囲の評価を重んじる場所において認証ラベル商品の売り上げが上昇するという結果が出ています。日本全国で行われた1万台以上の自動販売機による社会実験によると、環境認証マークのついたコーヒーと、マークのついていないコーヒーでは、社会的空間(オフィスビルなど、特定の人が使用する空間)において、環境配慮型コーヒーの売上が統計的有意に増加しました(+7%)。一方で、非社会的空間(ショッピングモールなど、不特定多数の人が使用する空間)では増加しないことが明らかになりました。このことから、環境に配慮した商品を選ぶ心理は、社会的地位 の向上にあるではないかと示唆されています(*11)。

商品の信頼獲得にむけて

エシカル消費の市場が拡大する中で、企業は近年問題視される「グリーンウォッシュ」や「SDGsウォッシュ」を避け、消費者へ商品の透明性を担保する必要性が増しています。

グリーンウォッシュとは、エコをイメージさせる色である「グリーン」と上部を良くする・誤魔化すといった意味の「ホワイトウォッシュ」を掛け合わせた造語であり、企業活動が環境に配慮しているように見せかけることを指します(*12)。拡大する企業のグリーンウォッシュ/SDGsウォッシュに対し欧米では直接的な制裁も強まっており、企業には根拠に基づいた持続可能性の開示が求められています。(※グリーンウォッシュの詳細については弊社の過去の記事でも取り上げております。)

このようなグリーンウォッシュ/SDGsウォッシュを避けながら商品の透明性を担保する一つの方法として、第三者認証を受けた認証ラベルの取得が挙げられます。認証ラベルとは、一般的に規定のガイドラインに沿った生産、加工、販売等を行い、第三者機関から承認された商品ラベルのことを指します。食品における認証ラベルで最も普及しているものの例として以下が挙げられます。

・レインフォレスト・アライアンス認証:より持続可能な認証農家で栽培された原料を森林、気候、人権、生活水準に焦点を当てて評価する認証制度(*13)。

・国際フェアトレード認証:生産者への適正価格の保証や人権・環境に配慮した国際フェアトレード基準をサプライチェーンにおける各工程で満たしているかを評価する制度(*14)。

・FSC認証:適切に管理された森林からの木材や適格だと認められたリサイクル資材から作られた商品を評価する制度(*15)。

・MSC認証:水産資源と環境に配慮した、持続可能な漁業で取られた生産物を評価する制度(*16)。

・RSPO認証:熱帯林の環境とそこに生息する生物の多様性に配慮し、生産者の暮らしを守ることが認められたパーム油を評価する制度(*17)。

・JGAP認証:食品安全・労働安全・環境保全・人権福祉など持続可能な農場経営への取組みに関し、日本の標準的な農場にとって必要十分な内容を網羅した評価制度(*18)。

消費者のエシカル消費の拡大に先立ち、食品業界では認証を獲得した商品の取引を拡大する動きが見られます。例えば、セブン&アイグループでは環境宣言「GREEN CHALLENGE(*19)」において、認証制度等により持続可能性が担保された原材料を2030年までに全体の50%、2050年までに全体の100%の商品に対応させることを宣言しています。また、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、農林水産省が「JGAP」認証を取得した食材のみを使用するという規定を発表しました(*20)。このように、企業にとっては消費者以外の外部環境によっても認証取得の重要性は増しており、トレンドは今後加速すると予想されます。

認証ラベル取得の難しさと懸念

本記事では食農業界における消費者嗜好の変化をエシカル消費の側面からご説明いたしました。企業にとって第三者機関による認証を受けることは、今後商品の取引範囲拡大に寄与すると予想されます。このトレンドにより、認証ラベルの取得をご検討される企業も多くいらっしゃると思います。一方で、認証ラベルの取得は費用と時間がかかる上に、どの認証制度に取り組めばよいのかお困りの企業も多いではないでしょうか。

事実、東京オリンピック・パラリンピックで促進された「JGAP」認証を例に挙げると、認証取得には「食品の安全性」の担保、「環境保全」への配慮や「労働者の安全」などの観点から約120項目の基準を満たす必要があります(*18)。各項目において、「書類審査」や「現地審査」など第三者機関によるチェックが行われ、申請プロセスでは8万円から10万円ほどかかります。また、全てのチェックを終えて認証が下りるまでに数年かかることもあり(*20)、費用と時間の面で導入が難しいという現状があります。

また、認証ラベルは様々な種類があり、重視している評価項目も異なります。そのため、多くのラベルから自社に適したものを選択する必要があり、認証取得へ踏み切れない企業も多数あるかと思います。

認証ラベル取得への第一歩としてまず、自社の機会やリスクを正しく把握することが非常に重要になります。把握のためには長期的利益の観点で、自社だけではなく、他社や他業界を含めた多数のESGデータを比較分析していくことが必要になります。

他方、ESGの評価軸も毎年アップデートされています。従って、国内海外のESGトレンド及びそこから波及する自社への事業リスクや機会を体系的に「広く」把握し続けることは多くの企業にとって容易ではありません。

また、把握したトレンドを自社の事業データと関連付けて定量的に考察し、自社の認証ラベル取得につなげる「深い」分析も多くのデータ処理や工数が必要になります。例えば「環境保全」という個別要素に目を向けても、様々な指標と計算手法があり、分析が複雑に構造化されています。

こうした「広く」「深い」分析アプローチを効率的に行うためには、各社がそれぞれで調べて対応するより、ノウハウを集約した専門家部隊が実行した方が不要な工程を削減し、また同じ工程を行う速度も速いため、極めて効率的かつ効果的となります。

本記事では1つのESGトレンド事例を抜粋して紹介しましたが、クオンクロップでは、外資系戦略コンサルティングファーム出身者を中心としたESG経営データ分析の専門家チーム及びAIを含む独自の分析ノウハウを活用し、各企業がエシカル消費者から「選ばれる」ために必要十分なESG活動量を把握し改善を支援する「ESG/SDGs経営度360°診断&改善支援」などのサービスを提供しております。

ESG経営分析のチームが社内に既にあり、ESG経営を既に推進している企業様における分析の効率化のみでなく、ESG経営分析のチームは現状ないものの、これからESG経営に舵を切る必要性を感じておられる、比較的企業規模が小さい企業様に対しても活用いただけるサービスです。ESG経営の効率的な加速のための、科学的かつ効率的な分析アプローチにご関心のある企業様は、是非クオンクロップまでお気軽にお問い合わせください。

クオンクロップESGグローバルトレンド調査部

引用

(*1)

https://ec.europa.eu/food/safety/agri-food-fraud/eu-coordinated-actions/coordinated-control-plans/horse-meat-2013-14_en

(*2)

https://www.reishokukyo.or.jp/wp-content/uploads/pdf/091202_public.pdf

(*3)

https://www.ethicalconsumer.org

(*4)

https://www.mitsui.com/mgssi/en/report/detail/__icsFiles/afieldfile/2020/01/24/1911o_sakai_e.pdf

(*5)

https://www.ethicalconsumer.org/sites/default/files/inline-files/EC_Market_Report_2021.pdf

(*6)

https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_doutai/attach/pdf/kokusan_genzai_top-17.pdf

(*7)

https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/0322-010354.html

(*8)

Nielsen, “The Sustainability Imperative”, 2015.10

(*9)

https://www.dentsu.co.jp/news/release/2021/0322-010354.html

(*10)

https://dentsu-ho.com/articles/7976

(*11)

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0921800921001403?via%3Dihub

(*12)

ideasforgood.jp/glossary/greenwashing/

(*13)

https://www.rainforest-alliance.org/ja/

(*14)

https://www.fairtrade-jp.org/about_fairtrade/intl_license.php

(*15)

https://jp.fsc.org/jp-ja/about_FSC_certificate

(*16)

https://www.msc.org/jp/what-we-are-doing/our-approach-JP/MSC-different-JP

(*17)

https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3520.html

(*18)

https://jgap.jp

(*19)

https://www.7andi.com/sustainability/g_challenge.html

(*20)

https://news.ntv.co.jp/category/society/462d9f8bd8e94bb4ab57e8b468971347

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