近年、食品をとりまくサステナビリティの社会的価値がより一層認識されるようになり、その解釈や測定方法について議論や研究が蓄積するとともに、それらをブランディングとして活用する潮流が見られています。本記事では、食品のライフサイクルの各段階にかかる環境負荷の事例及びブランディングの可能性についてご紹介します。

サステナブルな食品に関する判断基準と表示ルール

多くの消費者が、環境に配慮した食品選びを志向しています。2021年に野村総合研究所(NRI)が3,000人強の消費者を対象に実施した調査では、60%の回答者が地球温暖化の防止に貢献する食品を選びたいと答えました(*1)。

認証ラベルは、食品のサステナビリティの取り組みを示すツールとして広く普及しています。しかし、評価項目や基準が多種多様であり、ラベル間の比較が難しいことから、サステナビリティに関する活動を通じたブランディングへの効果が検証しにくい側面があります(※認証ラベルについては、弊社の過去の記事をご参照ください。)

そのほか、環境に配慮してつくられた食品を表す用語として、「エコ」「SDGs」「グリーン」「エシカル」「国産品」「地産地消」「オーガニック」などが広く使用されるようになりました(*2)。

これらの用語は、サステナブルな購買選択をする上で参考にされますが、実質的な環境負荷の低減には貢献しない場合も指摘されています。(※グリーンウォッシュについては、弊社の過去の記事をご参照ください。)

環境省の『環境表示ガイドライン』は、環境に関する自己宣言について、以下5項目を要求事項として定めています(*3)。

  1. あいまいな表現や環境主張は行わないこと
  2. 環境主張の内容に説明文を付けること
  3. 環境主張の検証に必要なデータおよび評価方法が提供可能であること
  4. 製品または工程における比較主張はLCA評価、数値等により適切になされていること
  5. 評価および検証のための情報にアクセスが可能であること

食品が環境に与えるインパクトは、生産、加工過程だけでなく、流通、販売、消費、廃棄過程等の条件に大きな影響を受けるため、特にガイドラインの3〜5つ目に対応するためには、定量的、全体性、客観性の確保が重要となります。 本記事では、食品の生産、流通、消費・廃棄の各過程における環境負荷を踏まえ、サステナビリティに関する活動を通じたブランディングを図るアプローチをご紹介いたします。環境影響評価によって視覚化(見える化)される食品間の異なる環境インパクトと、それに基づいた食品のサステナビリティに関する取り組みの可能性を探ります。

食品のライフサイクルと環境負荷

ライフサイクルアセスメント(以下「LCA」)は、原材料の調達から製造、加工、流通、販売、廃棄にわたる製品のライフサイクル全体を対象とした環境影響評価手法の一つです。

LCA では、一製品のライフスタイルにおける各ステップをモデル化することで、生産にかかる資源やその過程で発生する廃棄物、排出物の重量を推測し、LCA独自の影響領域の指標から環境負荷を算出します。

これらのデータは、製品の環境宣言や認証制度などによるマーケティング戦略に活用されます。以下では、食品を対象としたLCAの各過程の傾向やその解釈を説明いたします。

生産過程

栽培方法は、農作物の環境負荷を規定する要素の一つです。

たとえば、農作物の温室栽培は、施設の温度維持に燃料を要することから、同一品目の露地栽培の2〜20倍の温室効果ガス(以下「GHG」)を排出するという研究報告があります(*4)。

スペインの研究者らは、地中海沿岸の条件下でのミニトマト生産における環境負荷を、温室、露地、ネットの3つの栽培手法から測定しました。研究の結果は、温室栽培が、残りの2つの栽培手法と比べ、地球温暖化、酸性化、湖沼・河川の富栄養化、重金属の排出等の観点において環境負荷が大きいというものでした(*5)。

流通過程

<輸送距離>

多くの食品は、グローバルなサプライチェーンを経て最終消費者に届けられます。特に加工食品は、畑、工場、流通センター、店舗などいくつもの地点を経由するため、長距離の移動を伴います。

輸送距離が長いほど、多くの燃料を消費することから、フードマイレージは、食品の輸送量と輸送距離を掛け合わせた数値として、食品の長距離輸送に伴う環境負荷を示す概念として参照されます(*6)。

しかし、地産地消が必ずしも環境負荷を抑えるとは限りません。たとえば、イギリス国内でいちごを生産するよりも、スペインから輸入する方が、輸送に伴うGHG排出量を考慮しても、ライフサイクル全体における環境負荷が少ないという研究結果があります(*7)。

したがって、温室栽培のように直接的に、あるいは窒素肥料を多く投入して間接的に、大量のエネルギーを投入して収量を増やすのではなく、生産性の高い地域から調達することにメリットがある場合があります。どの観点から環境負荷を評価するかによって一製品のサステナビリティの解釈が異なる可能性に注意が必要です。

<輸送手段>

上記のフードマイレージでは、輸送距離が着目される一方、その輸送手段は考慮されません。各々の輸送手段が運んだ距離と、輸送した食品の量(質量)を掛け合わせ、トンキロで比較した場合、研究によれば、世界全体では、0.16%が飛行機、58.97%は船、残り30.97%が道路、9.9%が鉄道を経て運ばれます(*8)。
空輸のGHG排出量は海上輸送の約50倍である一方、空輸が担う食品は、腐りやすい青果物など付加価値の高い少量であり、その他の重量の重い食品は海上や陸上輸送で、大量輸送されます。そのため、輸送によるGHG排出量は食品のライフサイクル全体のうち6%にとどまります。

<輸送形態>

国内での食品の流通過程における環境負荷については、青森県八戸港から東京築地市場に異なる形態で輸送されるイカを対象に、イカの単位質量当たりの二酸化炭素の排出量を調査したものがあります。同研究は、活魚輸送の環境負荷が大きいほか、逆に凍結輸送は包装資源や輸送効率などから、冷蔵輸送よりも環境負荷を抑えた手段であることを発表しました(*9)。

また、緩衝包装の使用が、輸送時に損傷するイチゴを減らし、損傷した分のイチゴの追加生産を抑制することに着目した調査は、ライフサイクル全体から見たとき、緩衝包装を使用したイチゴの方が、それを使用しないイチゴより環境負荷が低いことを明らかにしました。同研究は、包装の不使用が環境負荷の低減に貢献するとは限らず、製品のライフサイクルを包括的に見ることの重要性を示唆しました(*10)。

消費・廃棄過程

<提供形態>

包装は、上述のように加工や流通段階において食品を衝撃や鮮度劣化から守るために使用されるほか、外食業でも多数の使い捨て包装が使用されます。たとえば、外食セクターで使用される複数回の利用可能なプラスチック容器は、従来の使い捨て包装材(木箱、使い捨てプラスチック箱、段ボール箱など)よりGHG排出量が低いことを指摘した研究があります。

ただし、複数回の利用可能なプラスチック容器については、その寿命、原材料、廃棄などの要素を、環境および費用の両方から検討することが有用です。外食企業は、消費者の志向を反映させるべく、より環境負荷の低い包装方法を採用している流通業者を意図的に選ぶことも考えられます(*11)。

<食品ロス・廃棄>

国連食糧農業機関(FAO)は、世界で年間約13億トンの食品が廃棄され、これは人間が消費するために生産される全食品のおよそ3分の1に相当すると見積もっています(※食品ロスに関する企業の取り組みについては、弊社の過去の記事をご参照ください)(*12)。

食料の廃棄は、食料生産の各過程で投入された肥料・飼料、土地、水、人間の労働力などの全ての資源を無駄にすることであり、世界全体で3.3GtCO2eqの排出に関与しています(*13)。

なお、食品ロス・廃棄の削減目標を設定するにあたり、廃棄する食品の重量だけでなく、環境負荷を考慮することが重要です。

食品の廃棄にかかる環境負荷をライフサイクル全体から測定すると、肉類は重量では最も廃棄が少ない食品カテゴリーである一方、最も大きなGHG排出量を伴います。他方、果物や野菜、穀物の廃棄は、最も大きな重量を抱える食品カテゴリーですが、これらの廃棄に付随する環境負荷は、肉類よりも格段に小さいものだとされています(*14)。

このことから、廃棄物の重量とその処分費用の削減ではなく、GHG排出量削減の最大化を目的とするならば、環境負荷の高い肉や空輸の輸入製品などを含む食品カテゴリーからの食品廃棄物の削減が優先されるべきだと考えられています(*15)。

LCAに基づいた食品のサステナビリティの取り組み

食品の環境負荷の数値化や製造条件の比較に取り組むLCA研究が進んでいます。LCAは、企業がサステナビリティに関する判断をする上で、重要な意思決定の材料となり、幅広い要素間のトレードオフを考慮することに役立ちます(*16)。

他方、開発、調達、製造から、流通、マーケティング、消費、廃棄に至るまで、バリューチェーン全体を通して一製品の環境負荷を把握するにあたり、膨大なデータの収集と分析の時間を要します。特に農業・食品分野においては、品目数や単価、複雑なサプライチェーンなどが、LCA実施の障壁となっています。

それだけでなく、サステナビリティに関する活動を通じたブランディングにおいて、LCAが扱う環境負荷以外の観点も重要です。たとえば、上記のイカ流通のLCA研究は、流通形態に規定される二酸化炭素の排出量と、輸送されるイカの品質がトレードオフの関係にあると述べしました。流通のサステナビリティ向上を図る上で、環境負荷だけでなく、品質の定量評価を実施が有効的です(*17)。

フランスの小売り大手は、製品の環境負荷を、産地、バラ売り・量り売りの有無、リサイクル可能な包装、輸送手段、認証の有無などの多数の基準から提示する試験導入を実施しました(*18)。実施結果は、食品の生産地を重視する人、包装形態を重視する人など、消費者の間で異なる基準が重視されることを示唆しました(*19)。品質や栄養といった製品そのものの情報のほか、食品のバリューチェーン全体における環境影響の情報を提供することが、消費者にとってより価値をもつようになると考えられます。

サステナビリティを通じた消費者へのブランディングの今後

国際的に、食品の生産過程だけでなく、それ以降の過程も含めたライフサイクル全体における環境影響が、食品のサステナビリティを評価する主軸となりつつあります。より柔軟な形で多様な観点から製品の環境影響を数値化・表示することが、消費者の幅広い関心に沿ったブランディングの推進に貢献します。けれども、LCA実施に要する膨大なコストや時間、複雑な抽出データからの効果的な情報提供などが課題となる可能性があります。

弊社サービス「Myエコものさし」では商品のサプライチェーンごとの取り組みをライフサイクルアセスメント(LCA)に基づいて評価してスコア化を行うことで、企業のエコへの取り組みを「見える化」して消費者にわかりやすい情報にして届ける一助を担っています。

自社製品に対してLCAによる評価を得ることで、自社の製品が競合製品も含む食品市場の中で、環境面でどのような位置づけにあるかを把握し客観性をもって市場に発信することができます。

クオンクロップでは、外資系戦略コンサルティングファーム出身者を中心としたESG 経営データ分析の専門家チーム及び独自の分析ノウハウを有するシステムを活用し、各企業が「選ばれる」ために必要十分なESG 活動を把握し改善を支援する「ESG/SDGs 経営度360°診断&改善支援」や「My エコものさし」等のサービスを提供しております。

分析検討チームが社内に既にあり、ESG 経営を既に推進している企業様における分析の効率化のみでなく、ESG 経営分析のチームは現状ないものの、これからESG 経営に舵を切る必要性を感じておられる、比較的企業規模が小さい企業様に対しても活用いただけるサービスです。ESG 経営の効率的な加速のための、科学的かつ効率的な分析アプローチにご関心のある企業様は、是非クオンクロップまでお気軽にお問い合わせください。

クオンクロップESGグローバルトレンド調査部

引用

*1 https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/knowledge/report/cc/mediaforum/2021/forum319.pdf?la=ja-JP&hash=3E78DF1240E6B1A6F8B456C0EDC413C447F66A0A

*2 https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_doutai/attach/pdf/kokusan_genzai_top-17.pdf

*3 https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/guideline/

*4 http://www.ritsumei.ac.jp/se/rv/amano/pdf/2009KKS-yoshikawanaoki.pdf

*5 https://link.springer.com/article/10.1007/s11367-016-1225-3

*6 https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/goudou/06/pdf/data2.pdf

*7

Webb, J., Adrian G. Williams, Emma Hope, David Evans, and Ed Moorhouse, 2013, “Do Foods Imported into the UK have a Greater Environmental Impact than the Same Foods Produced within the UK?,” The International Journal of Life Cycle Assessment, 18, 18(7): 1325-1343.

*8 https://www.science.org/doi/10.1126/science.aaq0216

*9 https://www.jstage.jst.go.jp/article/lca/14/3/14_219/_pdf/-char/ja

*10 https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010931302.pdf

*11 https://www.mdpi.com/2071-1050/12/9/3504

*12 https://www.fao.org/fileadmin/user_upload/suistainability/pdf/Global_Food_Losses_and_Food_Waste.pdf

*13 https://scnat.ch/en/uuid/i/7b06ddb8-e2c8-5739-bdc9-96263fd81055-Environmental_Impacts_of_Swiss_Consumption_and_Production

*14 Amicarelli, V., Lagioia, G, and Bux, C, 2021, “Global warming potential of food waste through the life cycle assessment: An analytical review,” Environmental impact assessment review, 91: 106677.

*15 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0921344919301284

*16 https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/us/Documents/process-and-operations/us-consulting-enhancingthevalueoflifecycleassessment-112514.pdf

*17 https://www.jstage.jst.go.jp/article/lca/14/3/14_219/_pdf/-char/ja

*18 https://www.carrefour.com/en/actuality/carrefourecoscore

*19 https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2022/4d39e1472078862e.html

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