世界の主要な投資機関は投資判断にESG指標を組み込んでいますが、良い評価を受けるには、指標によっては100種類を超える多種多様な情報の開示・提供が必要です。また、定量だけでなく定性情報が組み合わされており、解釈も容易ではありません。本記事では、乱立するESG指標及び企業が活用する際の注意点をご説明します。

投資判断に使われるESG指標(スコア)

「企業はステークホルダーに対するESGの観点を経営に統合する必要がある。」という考えは一般化しています。この社会潮流の大きな要因として、世界の主要な機関投資家を筆頭とし、多くの投資家が投資判断にESGの観点を組み込んでいることがあります。

署名することでESGの観点を投資判断に統合することを宣言するPRI(責任投資原則)の署名数は世界で4,115を超えました(2021年7月2日時点)(*1)。世界最大規模の運用資産額を持つGPIF(年金積立金管理運用独立法人)を始め、日本でも23の機関投資家が署名をしています。

以上のような投資家は、企業のESG評価において独自調査に加えて第三者機関・団体が提供するESG指標の結果の参照し、投資判断を行なっています。

例えば、国内外の主要な投資家が参照しているESG指標だけでも、MSCI、S&P(SAM)、SASB、Sustainalytics、FTSE Russell、CDP、ISS、Refinitiv、なでしこ銘柄、健康経営銘柄、Arabesque、Bloomberg、RepRisk、Covalence、CSRHub、Inrate、BoardEx、HOLT、GRIなど様々です。

以上のようなESG指標は大きく二つに分類することができます。

1つ目の分類方法は、ESG領域全般または対象分野を絞った分析という領域の広さの分類です。ESG領域全般を対象とする指標では、ESGの『E』(環境)、『S』(社会)、『G』(ガバナンス)全ての観点を総合的に評価します。

S&P、MSCI、FTSE等世界で有名な金融情報提供機関が発行する指標が該当し、ESGの観点から総合的に企業の分析・評価を行なっています。評価対象を絞った指標では、ESGの『E』『S』『G』の一つまたは二つにテーマを絞って分析・評価を行ないます。

特に、気候変動、水質汚染など『E』(環境)の観点で多く存在し、投資機関が参照している指標の一つであるCDPが一例として挙げられます。CDPは『E』に特化し、「気候変動」「森」「水のセキュリティ」の3観点の分析・評価を行なっています。

2つ目の分類方法は、企業から認証取得等働きかけを行う能動的な指標と、第三者評価機関が独自で企業の調査をする受動的な評価指標です。

能動的な指標では、企業はESGに関わる基準を満たすことや定められたルールを守ることに同意することで認証を取得出来ます。一般的に、認証取得を発信することにより企業の信頼度を担保・向上させることや他社との差別化を目的として行われます。

特に、気候変動(特に温室効果ガス排出量削減がテーマ)においては世界的に進んでおり、Science-based Targets (SBT)、 RE100、EV100、EP100、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure)等多くのイニシアチブやタスクフォースが挙げられます。日本においては、女性の活躍推進を評価するなでしこ銘柄や企業の健全な経営を評価する健康経営銘柄なども投資家が参照する指標の一つとなっています。

更に、企業の積極的な情報発信の促進のためのガイドライン(枠組み)を提供している機関もあります。SASB (Sustainability Accounting Standards Board)やGRI (Global Reporting Initiative) 等が主な機関になり、投資機関もこれらのガイドライン内の情報を参考にしています。

受動的な指標では、評価する機関が企業の公開情報・非公開情報を活用し分析・評価を行う指標です。公開情報は、主に企業のホームページ(HP)、サステナビリティ報告書、CSR報告書、ESG報告書、年次報告書(アニュアルレポート)、統合報告書等多くの企業がインターネット等で外部に公開している情報が該当します。

また、企業が発信する情報だけでなく、政府・NGO等が発行する報告書やニュースメディア等の情報も分析・評価の対象となります。更に、「質問書」を調査対象企業に送付し、回答を送付することで非公開情報の分析・評価を行う指標もあります。

多くの場合、質問書に回答義務はありませんが、一般的に回答がない企業は「回答していない企業」として低い評価とされてしまいます。また、内部情報の正確性の担保としてコンサルティング企業等の第三者機関に保証を依頼することも可能です。CSR報告を行っているグローバル・フォーチュン500社のうち上位250社の67%が第三者保証を受けています(*2)。

評価に要求される多種多様なESG情報開示

ESG評価指標において良い評価を受けるには情報開示が必要になりますが、評価指標によって開示を求めるESG情報は様々です。一般的に『E』『S』『G』の各項目においてテーマや領域で複数の階層の補助項目があります。そして指標全体で100以上のデータポイントを設け、分析・評価を行なっています。

グローバルでは、これらのESG指標を一つに集約しようと試みる動きがありますが、社会の変化と共に企業に求められる活動も変化することや、業種横断型の画一的・網羅的な指標作成の難しさ等の理由により、集約可能な状態にまでには時間がかかる見込みとなっております。

以下では、世界の代表的な投資機関が参照する4つの指標について例をご紹介します。

<事例1: MSCI>

1つ目は、最も多くの主要な投資家が参考にしている指標の一つであるMSCIです。MSCIは『E』『S』『G』の各項目でいくつかのテーマに分かれたESG課題を提示し、その課題に対する企業の対応や取り組みを分析・評価しています (*3)。

まず、『E』では、気候変動(Climate Change)、自然資源(Natural Capital)、汚染と廃棄物(Pollution & Waste)、環境機会(Environmental Opportunities)のテーマがあります。

上記の各テーマに2〜6個のESG課題が紐づいています。例えば、気候変動(Climate Change)においては、温室効果ガス排出量(Carbon Emissions)、商品のカーボンフットプリント(Product Carbon Footprint)、環境会計(Financing Environmental Impact)、気候変動に対する脆弱性(Climate Change Vulnerability)が分析・評価される課題として挙げられています。

次に、『S』では、人的資本(Human Capital)、商品に対する責任(Product Liability)、ステークホルダーの主張(Stakeholder Opposition)、社会機会(Social Opportunities)のテーマがあります。

例えば人的資本(Human Capital)では、雇用マネジメント(Labor Management)、健康と安全(Health & Safety)、人的資源開発(Human Capital Development)、サプライチェーン雇用基準(Supply Chain Labor Standards)が分析・評価される課題として挙げられています。

最後に、『G』では、企業統治(Corporate Governance)と企業行動(Corporate Behavior)のテーマがあります。

例えば企業統治(Corporate Governance)では、オーナーシップとコントロール(Ownership & Control)、委員会(Committee)、報酬(Pay)、会計(Audit)の4つの領域でESGの観点から分析・評価が行われています。

MSCIは、以上で挙げられるようなESG課題を1,000項目以上のデータポイントを通して分析・評価しています。例えば、『E』の気候変動(Climate Change)では、温室効果ガス排出量の目標・結果・再生可能エネルギーの使用有無・環境マネジメント戦略・パフォーマンス等がデータポイントの一例として挙げられています。

また、MSCIでは以上のようなデータポイントを「エクスポージャー基準(Exposure Metrics)」と「マネジメント基準(Management Metrics)」に分類し、業界ごとに定義された重要なESG課題に対する企業の取り組みを評価し、「AAA」から「CCC」で企業に対する評価を行なっています(*3)。

<事例2: S&P>

2つ目は、S&P(スタンダード&プアーズ)が行う企業向けサステナビリティ調査(CSA・Corporate Sustainability Assessment)です。S&Pでは、「Environment」「Social」「Economic」の各項目においていくつかのテーマがあり、テーマに紐づく内容を企業に「質問書」として回答依頼を送付する方式で行なっています。S&Pでは、一般的に『G』と表記される指標を「Economic」と表記しています。

「Environment」では、オペレーションのエコ効率(Operational Eco-Efficiency)、気候戦略(Climate Strategy)、商品スチュワードシップ(Product Stewardship)について回答する項目があります。

次に、「Social」では、雇用プラクティス指標(Labor Practice indicators)、人権(Human Rights)、人材育成(Human Capital Development)、人材アトラクションと維持(Talent Attraction & Retention)、企業の市民活動とフィランソロピー(Corporate Citizenship & Philanthropy)について回答する項目があります。

最後に、「Economic」では、コーポレートガバナンス(Corporate Governance)、マテリアリティ(Materiality)、リスク・危機マネジメント(Risk & Crisis Management)、ビジネス行動コード(Code of Business Conduct)、ポリシーの影響(Policy Influence)、サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management)、税戦略(Tax Strategy)、情報セキュリティ・サイバーセキュリティとITシステムの可用性(Information Security/Cybersecurity and IT System Availability)について回答する項目があります。

S&Pでは、以上の『E』『S』『G』に付随するテーマに対して各3〜5項目の質問の回答をデータポイントとして扱い、分析・評価を数値で出しています。例えば、「Environment」のエコ効率(Operational Eco-Efficiency)では、GHG(温室効果ガス)排出量、水使用量、廃棄物量等、「Social」の雇用プラクティス指標(Labor Practice indicators)では性別・人種・年齢など多様なダイバーシティに関わる項目に対して企業に回答を求めています。

また、以上の指標に加えて業界や業種に応じて定義されたESGテーマ・質問がある場合もあります。例えば、航空業界では「乗客の安全」の観点が追加のESGテーマとして加えられています。

ここまででMSCIの指標とS&Pの指標を比較すると、似ているテーマはありますが、詳細のデータポイントは独自性があります。例えば、両指標で気候変動(Climate Change)に関して評価を行なっていますが、詳細の分析に使用するデータポイントは同じではありません。

<事例3: FTSE Russell>

3つ目は、イギリスに本社を置く金融情報を提供する機関のFTSE Russell(以下、FTSE)です。FTSEは以下の『E』『S』『G』の項目で分類しています。

『E』では生物多様性(Biodiversity)、気候変動(Climate Change)、汚染と資源(Pollution & Resources)、水のセキュリティ(Water Security)の観点で分析・評価を行なっています。

次に、『S』では消費者に対する責任(Customer Responsibility)、健康と安全(Health & Safety)、人権とコミュニティ(Human Rights & Community)、雇用基準(Labor Standards)の評価を行なっています。

最後に、『G』では、汚職防止(Anti-Corruption)、企業統治(Corporate Governance)、リスクマネジメント(Risk Management)、税の透明性(Tax Transparency)で分類されています。

FTSEでは以上のテーマで300以上のデータポイントを設け、FTSEが発行するインデックスに組み込んでいます。

ここまでで、MSCI、S&P、FTSEの3指標を比較しましたが、『E』のテーマにおいても各指標で異なってきます。例えば、FTSEでは生物多様性(Biodiversity)を評価している観点に独自性があります。

<事例4: SASB>

4つ目は、SASB(Sustainability Accounting Standards Board, サステナビリティ会計基準審議会、以下SASB)です。SASBは、2011年に設立されたサンフランシスコを拠点とする非営利団体で、企業の情報開示のための基準を提供しています。SASBでは、環境(Environment)、社会資本(Social Capital)、人的資本(Human Capital)、ビジネスモデルとイノベーション(Business Model & Innovation)、リーダーシップとガバナンス(Leadership & Governance)の5つのESG課題カテゴリーに分類し、推奨開示項目を提示しています。

SASBは、各カテゴリで4〜7つのESG課題を提示しています。例えば、環境(Environment)では温室効果ガス排出(GHG Emissions)、大気の質(Air Quality)、エネルギー管理(Energy Management)、取水・排水管理(Water & Wastewater Management)、廃棄物・有害物質管理(Waste & Hazardous Materials Management)、生態系への影響(Ecological Impacts)がテーマとして挙げられています。

更に、社会資本(Social Capital)では、人権とコミュニティとの関係(Human Rights & Community Relations)、顧客プライバシー(Customer Privacy)、データセキュリティ(Data Security)、アクセス・入手可能な価格(Access & Affordability)、品質・製品安全(Product Quality & Safety)、顧客利益(Customer Welfare)、販売慣行・表示(Selling Practices & Product Labelling)がテーマとして挙げられています。

以上のように、企業はESGの観点で投資家から多種多様な観点で分析・評価をされます。そのため、良い評価を得るためには多様なESG情報を公開・提供する必要があり、相当な工数がかかります。

解釈が容易ではないESG指標の評価基準

評価には定量情報だけでなく、定性情報も組み込まれています。そのため、一つ一つのESG課題に対する評価を解釈することは容易ではありません。上記で説明させて頂いた世界の代表的な投資機関が参照する4つのESG指標の評価基準について、ここでは一部の例をご紹介します。

MSCIでは多くの定性情報を評価に組み込んでいます。例えば、『E』の観点では環境戦略や対策の運用方法を定性情報として評価しています。具体的には、パッケージングが環境に与える影響を減らすための戦略や水に関わるリスクにおいて定期的に監視・計測できる取り組み等が評価されます。

また、戦略・運用方法だけでなく情報の正当性も評価に組み込まれています。例えば、企業のGHG削減目標を達成したか否かを判断するための記録まで評価の対象となっています。

S&Pでは、質問書に定性情報を記入する箇所があります。例えば、『E』では温室効果ガス排出量等の定量情報だけでなく、気候変動に対して取り組みを進めるための責任者・役割・戦略等定性情報を提供する必要があります(*4)。

SASBでは、定性情報を開示することを推奨しています。例えば、温室効果ガス排出量削減において短期・長期的な戦略を伝える必要があると主張しています (*5)。

このように定量・定性情報をもとにESG評価を行なわれており、企業にとっては良い評価を得るための評価基準の解釈に時間と手間がかかります。

基準は定期更新されるため自社活動の見直しも必要

更に、ESG評価指標は定期的に更新されます。例えば、MSCI、FTSE Russell、SASB(*8)、RepRisk、GRI等世界の投資家が参考にしている指標は定期的に更新されています。特に、Sustainalytics(*9)、 ISS(*10)は毎年更新しています。また、S&Pが行う企業向けサステナビリティ調査、CDP、なでしこ銘柄、健康経営銘柄、など企業に回答を求める指標も毎年質問内容が更新されています。

このように、数多くのESG指標全ての更新に対応していくためには、膨大な作業を定期的に行う必要があります。また、ESG評価指標は世界に数多くあります。クオンクロップ独自調査では、国内外の主要な投資機関が参照しているESG評価指標だけでも30機関以上ありますので、定期的なトラッキングはとても大変です。

また、ESG指標は事業内容に応じて評価する項目に違いを設けることや重要度の差をつけることで事業特性による不平等を最小化しています。そのため、自社の事業の特性に応じて適切な情報収集・発信を行うことが重要です。

ESG情報を企業価値向上に繋げるために

投資家が参考にしている多くのESG指標で良い評価を受けるには、多種多様な情報の開示・提供が必要です。また、定量情報だけでなく定性情報も組み込まれており解釈は容易ではありません。本記事では、良い評価を受ける難しさをご説明させて頂きました。

クオンクロップでは、外資系戦略コンサルティングファーム出身者を中心としたESG経営データ分析の専門家チーム及びAIを含む独自の分析ノウハウを活用し、各企業が「選ばれる」ために必要十分なESG活動量を把握し改善を支援する「ESG/SDGs経営度360°診断&改善支援」などのサービスを提供しております。

そのため、ESG経営分析のチームが社内に既にあり、ESG経営を既に推進している企業様における分析の効率化だけではなく、ESG経営分析のチームは現状ないものの、これからESG経営に舵を切る必要性を感じておられる、比較的企業規模が小さい企業様などに対しても活用いただけるサービスです。ESG経営の効率的な加速のための、科学的かつ効率的な分析アプローチにご関心のある企業様は、是非クオンクロップまでお気軽にお問い合わせください。

クオンクロップESGグローバルトレンド調査部

引用元

※同種の情報を有する引用元が複数ある場合、日本語で記述されている引用元を一例として掲載しています。

*1

https://www.unpri.org/signatories/signatory-resources/signatory-directory

*2

https://home.kpmg/jp/ja/home/services/advisory/risk-consulting/sustainability-services/sustainability-report-assurance.html

*3

https://www.msci.com/documents/1296102/21901542/MSCI+ESG+Ratings+Methodology+-+Exec+Summary+Nov+2020.pdf

*4

https://www.spglobal.com/esg/csa/methodology/

*5

https://www.ftserussell.com/data/sustainability-and-esg-data

*6

https://www.jpx.co.jp/corporate/sustainability/esgknowledgehub/disclosure-framework/03.html

*7

https://portal.csa.spglobal.com/survey/documents/CSA_2021_Methodology_Updates_Overview.pdf

*8

Standard-Setting Process

*9

https://connect.sustainalytics.com/esg-risk-ratings-methodology

*10

https://www.issgovernance.com/file/products/qualityscore-techdoc.pdf

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