近年、牛乳の代替品となる植物性ミルクの市場が世界、日本どちらにおいても拡大しています。本記事では、今後の市場拡大の動向と環境負荷における牛乳と植物性ミルクの比較、また植物性ミルクの優位性を消費者に訴求する上でのライフサイクルアセスメント(LCA)の重要性について解説します。

植物性ミルクとは

植物性の代替乳飲料(以下、植物性ミルク)は植物性原料から作られた、牛乳の代替品です。一般的には、それらを分解し、水に溶かすことで、見た目と味を牛乳に近づけたものを指します。原料としては穀類(お米やオーツ)や豆類(大豆、ピーナッツ)、種実類(アーモンド、ココナッツ、ヘーゼルナッツ)、擬似穀類(キヌア、アマランサス)といったカテゴリーがありますが、市場に出回っているものとしては大豆、アーモンド、オーツが大半を占めます(*1)。牛乳の代替品市場は飲料以外にもヨーグルトやチーズ、アイスクリームなど、様々な製品カテゴリーにも拡大していますが、本記事では飲料について注目してご紹介します。

拡大する植物性ミルクの市場動向とその背景

市場の動向

2017年に約148億米ドルであったグローバルの植物性ミルク市場は2020年には約180億米ドルを突破し、2026年には約377億米ドルに達することが予測されています(*2)。

食品メーカーにとって、動物性タンパク質と植物性タンパク質の両方を含んだポートフォリオを築き多様化を図ることは、サプライチェーンに対するリスクを軽減し、変化する消費者志向への機動性を高めるだけでなく、企業の成長性、革新性に影響を与える要素として認識されています。

例として、乳製品市場における世界でのシェアが首位であるフランス大手乳製品メーカーのダノンがあります。当グループは2021年に、フランスにある大規模工場のうちの一つについて牛乳から植物性ミルクの生産に切り替えることを発表しています(*3)。

日本においても同様の市場拡大が見られます。2017年の植物性ミルクの消費量は約32万トンであったのに対し、2026年には約82万トンまで拡大すると予想されています(*4)。

植物性ミルクの中で最大の市場規模を誇る豆乳については、マルサンやキッコーマンといった大手企業がシェアの大部分を占める中、NEX Tミーツなどのベンチャー企業やALPROといった海外企業はオーツミルクの販売を進めています(*5)(*6)(*7)(*8)。

カフェなどの飲食店においても植物性ミルクの導入は加速しています。スターバックスは、2001年より牛乳から豆乳への変更のカスタマイズを始めていましたが、2020年、2021年にはそれぞれアーモンドミルクとオーツミルクの本格提供をスタートさせました(*9)。

消費者の価値観の変化

上記のように植物性ミルクの市場が拡大した理由として、消費者の価値観が変化したことが挙げられます。これを示す数字の一つとして、英国に拠点を置く市場調査会社のユーロモニターインターナショナルの調査によれば、世界の消費者のうち42%が動物性食品の消費を控えていると言います(*10)。

世代別に見るとベビーブーマー世代(1946年生まれ頃~1964年生まれ頃)は34%にとどまっている一方で、Z世代(1996年生まれ頃~2012年生まれ頃)は54%を記録し、今後ますますこのような菜食を時々取り入れる食習慣を行う「フレキシタリアン」の割合が増していくことが考えられます。このような動きが植物性食品全体で見られる中、植物性ミルクの需要の増加に至った主要な要因の一つが牛乳の生産に伴う環境負荷への懸念を抱く人々の増加です。

環境負荷における牛乳と植物性ミルクの比較

牛乳の生産における環境負荷

牛乳の環境負荷は実際、大豆、オーツ、アーモンドなどの主要な植物性ミルクと比較すると著しく高いことがわかります(*11)。特に、①温室効果ガス、②水や土地といった資源の過剰利用、③汚染と富栄養化の3つの指標において、これらの代替品を大幅に超える水準での環境負荷が見られます。具体的には、牛乳の生産に伴う温室効果ガスの排出量はアーモンドの約4.5倍、土地の利用面積はアーモンドの約18倍、水の使用量は大豆の約22倍、富栄養化に関しても大豆の約10倍の影響を与えるという研究結果がサイエンス誌に掲載されています(*11)。

牛乳の環境負荷がこれほど大きい要因としては以下の理由が挙げられます。

①牛由来の温室効果ガスの影響

牛乳の一連の生産過程で放出される温室効果ガスは、食品の中でも高い割合を占めており、酪農全体で見ると、その量は食品カテゴリーのうち肉製品についで2番目に多いとされています(*12)。

特に大きな影響を及ぼしているのはメタンガスです。メタンガスは牛などの反芻動物の消化過程で発生するゲップや排せつ物に含まれる温室効果のある物質の中でも最も強力であり、2013年に発表されたワーゲニンゲン大学の研究によると、牛乳のライフサイクルで排出される温室効果ガスの8割以上がこれに起因するとされています(*13)。その温室効果についてEUは、100年間での比較時には二酸化炭素の約30倍、20年間では約84倍強力であると報じています(*14)。

②水や土地等の資源の過剰利用

牛乳の生産のためには、高品質の水の供給は不可欠ですが、その使用量には懸念点もあります。水は、個体による消費、牛乳の冷却、機器の洗浄、個体の体温調整、作物の灌漑、付加価値商品の生産、糞尿の移動、牛舎の洗浄などに使用され(*15)、カリフォルニア大学の研究によると、1Lの牛乳を作るのに必要な水の量は628Lと言われています(*16)。地域によっては、酪農産業の発展によって地域の水資源が枯渇する可能性があります。同じ量の豆乳を作るのに27.8Lしか要しない点からは、牛乳の生産がいかにこれに寄与するかが伺えます(*11)。

土地の利用の観点においても牛乳の生産は問題を抱えています。乳製品への需要の高まりから、地球の地表の7%にあたる10億ヘクタール弱が乳牛の飼料生産のために利用されるようになりました(*12)。

これは主に、粗放農業、集約農業どちらの形態においても、それぞれ広大な土地を必要とするからです。後者についてはアマゾン地域における森林破壊の主な要因である、飼料生産用の耕地開拓に伴う森林伐採が問題視されています。ブラジルでは、大半が飼料として使われる大豆の栽培のために1,000平方km(10万ヘクタール)以上のアマゾンの熱帯雨林が伐採されたと報じられており、牛乳の生産もこれに大きく寄与しています(*17)。

このような牛乳生産規模の拡大による土地利用の変化は、生物多様性の損失を引き起こす最大の要因であると共に、木々に長年蓄えられていた炭素を大気中に放出することにも繋がります(*12)。

③汚染と富栄養化

牛乳生産は、家畜排せつ物の不適切な処理方法によって、周辺の土壌や水質に対して富栄養化をはじめとした影響をもたらします。排せつ物は少量であれば土壌に散布することで窒素やリンといった元素が適切な水準で土壌に蓄積されます(*12)。

しかし、土地の面積が限られている、あるいは家畜の飼育密度が高いケースなど適切なペースでの排せつ物の散布が困難な地域では、単に積み上げられた状態で放置する「野積み」や地面に掘った穴の中に放置する「素掘り」といった不適切な処理がなされることで、土壌、さらには地下水やそれらに繋がる川などの水路が過度な量の窒素やリンで汚染されます(*18)。

これらの元素は生態系を維持する上で不可欠なものですが、過剰に増加してしまえば、これらをエサとする植物プランクトンや藻類が大量に繁殖し、これらは水中への光の透過を減少させるため、光合成の不足により、水中の植物や藻類が死滅、酸素量の急激な低下によって、結果的には魚などの生物も死滅させ、生物多様性の面で重大な影響をもたらします(*12)。

 欧州では、河川から沿岸水域に運ばれる窒素とリンのうち、畜産業がそれぞれ23〜47%、17〜26%を占めていると推定されており、牛乳の生産も重大な要因です(*12)。

このように、牛乳の生産は、温室効果ガスだけでなく、資源の過剰利用や汚染、富栄養化の面など多方面において環境負荷が大きい一方で、これに伴い需要の増加した植物性ミルクに関しては、これらの点については著しく優れていることが言えます。しかし、異なる原料の植物ミルク間や同じ原料の植物ミルク間でも、その生産地や生産方法によって最終的な環境負荷に差が生まれます。次に、世界的な植物性ミルク市場の大部分を占めている豆乳、アーモンドミルク、オーツミルクについてそれぞれの環境面での特徴や問題点をご紹介します。

植物性ミルクの生産における環境負荷

豆乳と森林破壊

植物性ミルク全体の中においては豆乳の水の使用量は一際少ない傍ら、温室効果ガスの排出量や富栄養化に関する評価は平均的です(*11)。ただし、土地の観点では森林伐採の観点で懸念されています。ブラジルのアマゾン地域における森林破壊は、牛肉生産のための牧草地の拡大が主な要因であり、当地域の大豆の生産についても大部分が家畜用の飼料やバイオ燃料の製造に利用されますが、依然として、豆乳などの大豆製品の生産が森林破壊に加担していることは変わりません(*19)。

大量の水を消費するアーモンドミルク

アーモンドミルクは、温室効果ガスや土地の利用、富栄養化における環境負荷は比較的少ないと言えます(*11)。しかし、水の使用量に関しては、牛乳よりは低いものの、他の主要な植物性ミルクと比較すると著しく高くなっています。特に問題視されているのが世界のアーモンドの80%以上がカリフォルニアで生産されている点です(*20)。近年では州全体が深刻な干ばつに見舞われているなか、州の農業用水の約10%を消費してしまう状況は地下水などの水源の枯渇に寄与します。

オーツミルク生産における除草剤使用の問題点

オーツミルクの環境負荷は総合的に低いとされていますが(*11)、原料のオーツ麦栽培時の農薬使用については、その環境への影響が懸念されています(*21)。環境保護団体Environmental Working Groupが行った2018年の報告書によると、オーツ麦を収穫する前にラウンドアップという除草剤を散布するため、オーツ麦を含む全てのテスト食品に除草剤のグリホサートが検出されました。グリホサートは、生物多様性の損失を引き起こし、生態系を汚染や気候変動に対してより脆弱にする可能性があるとされています。ただし、最大のオーツミルク製品メーカーであるOatlyは、自社のサプライヤーがグリホサートを使用していないことを主張しています。

植物性代替乳製品市場におけるLCAの可能性

植物性ミルク全体としての環境負荷は、温室効果ガス、水や土地などの資源の利用、汚染と富栄養化といった多方面において牛乳よりも著しく低いことがわかります。他方、植物性ミルク間に関しては原料の種類や生産の条件によっては問題点もあるため、差異が生じます。植物性ミルクの市場が今後もますます拡大していく中、消費者としては個々の植物性ミルク製品の環境への影響は限られた情報からしか判断できないという現状があります。

そのため、自社の植物性ミルク製品の定量的な環境情報を、客観性を確保しながら示すことは、他製品との違いを視覚化し、環境や食糧問題の解決に貢献したいと考える消費者にアプローチする上で、有効的な戦略となり得ます。

そこで注目を集めているのが、実データと統計データを組み合わせて環境負荷を定量分析するライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment) (以下LCA)です。

LCAとは、原材料の調達から生産、製造、加工、流通、販売、廃棄にわたる製品のライフサイクル全体を対象とした環境影響評価手法の一つです。LCA では、一製品のライフサイクルにおける各ステップをモデル化することで、生産にかかる資源やその過程で発生する廃棄物、排出物の重量を推測し、LCA独自の影響領域の指標から環境負荷を算出します。 植物性ミルクの文脈においても、LCAを使うことで、牛乳と植物性ミルク、または植物性ミルク同士の包括的な環境負荷面での比較が、事業者及び消費者にとって可能になります。

サステナビリティ面での消費者へのブランディングの今後

国際的に、食品の生産過程だけでなく、それ以前、以降の過程も含めたライフサイクル全体における環境への影響が、食品のサステナビリティを評価する主軸となりつつあります。より柔軟な形で多様な観点から製品の環境影響を数値化・表示することが、消費者の幅広い関心に沿ったブランディングの推進に貢献します。一方で、LCA 実施に要する膨大なコストや時間、複雑な抽出データからの効果的な情報提供などが課題となる可能性があります。

弊社サービス「Myエコものさし」では商品のサプライチェーンごとの取り組みをライフサイクルアセスメント(LCA)に基づいて評価してスコア化を行うことで、企業のエコへの取り組みを「見える化」して消費者にわかりやすい情報にして届ける一助を担っています。自社製品に対してLCA による評価を得ることで、自社の製品が競合製品も含む食品市場の中で、環境面でどのような位置づけにあるかを把握し客観性をもって市場に発信することができます。

「Myエコものさし」では、欧米でのスコアリング手法に加えて、消費者が「習慣」として食のサステナブル消費を実行し、より継続的な行動変容につなげるための仕組みを組み込んだ消費者のスマートフォン上のサービスとして提供している点が特徴です。

また、冒頭ではサステナブル消費にまつわる課題として、消費者にとっての分かりづらさという点を挙げましたが、消費者がサステナブルの観点から実際に自社商品を選択したのかどうかが、事業者や生産者側に伝わりづらい点も課題として挙げられます。

直近では、サステナビリティに配慮した経営を行うことで、消費者の関心を引けるのかどうかわからず、どの程度、サステナビリティに配慮した商品生産やその発信に対して投資していくべきか判断に悩まれている事業者や生産者のお声をいただくことも増えてきております。

「Myエコものさし」を通じて、自社の商品のエコスコアリングを発信内容に基づく消費者の選択状況についてのトラッキング可能になるため、サステナビリティに配慮した商品生産やその発信に対する費用対効果をより具体的にすることも可能となります。

「Myエコものさし」にご関心をお持ちいただいた方は、是非クオンクロップまでお気軽にお問い合わせください。

クオンクロップESG グローバルトレンド調査部

参考文献

*1 https://www.euromonitor.com/article/trends-to-watch-in-plant-based-milk

*2 https://www.statista.com/forecasts/693055/dairy-alternatives-global-sales-value

*3 https://www.reuters.com/business/retail-consumer/danone-switch-dairy-factory-plant-based-alpro-diets-shift-2021-11-17/

*4 https://www.statista.com/forecasts/1293796/milk-substitute-japan-consumption

*5 https://www.asahi.com/articles/ASP3M5RLQP33OIPE019.html)

*6 https://toyokeizai.net/articles/-/429889?page=3

*7 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000092.000062184.html

*8 https://www.danone.co.jp/news/20200403-2/

*9 https://stories.starbucks.co.jp/ja/stories/2022/0401/

*10 https://www.euromonitor.com/article/trends-to-watch-in-plant-based-milk

*11 https://ourworldindata.org/environmental-impact-milks

*12 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8657189/#B77-ijerph-18-12678

*13 https://www.fao.org/climatechange/41535-017ba85988db8b506df8bb1c07443208e.pdf

*14 https://energy.ec.europa.eu/topics/oil-gas-and-coal/methane-emissions_en#:~:text=Methane%20is%20the%20second%20most,on%20a%2020%2nd Year%20 timescale

*15 https://www.canr.msu.edu/news/water_use_on_dairy_farms

*16 https://sites.uci.edu/morningsignout/2021/02/04/milk-alternatives-nutritional-and-environmental-impacts/

*17  https://www.thebureauinvestigates.com/stories/2022-02-10/farms-touting-deforestation-free-soya-still-tearing-down-the amazon#:~:text=More%20than%201%2C000%20sq%20km,rainforest%2C%20an%20investigation%20can%20reveal

*18 https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/t_mondai/01_mondai/

*19  https://ourworldindata.org/soy

*20 https://www.vox.com/2015/4/14/8407155/almonds-california-drought-water

*21 https://www.nationalgeographic.co.uk/environment-and-conservation/2022/12/is-your-favourite-plant-based-milk-good-for-the-planet-heres-how-they-compare

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