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「回避排出」(Scope 4)の算定と開示がもたらす競争優位——国際動向と企業戦略への示唆

「回避排出」(Scope 4)の算定と開示は、CDP・GHG Protocolの設問追加によって国際報告実務の新スタンダードとなる可能性が高まっています。これを先んじて理解し、対応することは、今後のサステナビリティ戦略差別化に直結します。本記事では「回避排出」の定義、国際的な規格・動向、実際の企業事例、そして「回避排出」を活用した競争優位の構築方法まで、包括的に解説します。

「回避排出」とは何か?:定義と位置づけ   

2050年カーボンニュートラル実現に向けて、バリューチェーン内の削減(Scope 1-3)だけではなく、提供する製品・サービスによる社会全体への貢献が問われ始めています。「回避排出」とは、企業の製品やサービスが、同じ機能を持つより高排出な代替手段の代わりに使われることで回避された排出量や、リサイクルなどによって回避される排出量を示す指標です。GHGプロトコルが提唱するScope 1(自社の直接排出)、Scope 2(自社の間接排出)、Scope 3(バリューチェーン上の間接排出)に続く新しい概念であり、「回避排出(Avoided Emissions)」と呼ばれることもあります。(*1)(*2)

「回避排出」は、たとえば再生可能エネルギーが化石燃料発電を代替した場合や、電気自動車がガソリン車の利用を減らした場合のように、自社のバリューチェーン外での排出削減効果を測定します(*3)。具体的な例としては、省エネ機器メーカーが自社製品を通じて顧客の電力消費を削減し、その結果としてCO₂排出量の削減に貢献するようなケースが挙げられます。つまり、企業が提供するソリューションが社会全体に与える脱炭素インパクトを可視化するための指標です(*4)。

国際的な標準を見ると、GHGプロトコル、フランスのADEME、ISO14069はいずれも“Scope 4” という名称は正式には用いておらず、「回避排出」や「比較排出影響(Comparative Emissions Impact)」という表現に留まっています(*1)(*5)。しかし、いずれの枠組みにおいても共通するのは、「製品やサービスの提供によって生まれる他社の排出削減効果」を重視している点です(*1)(*6)(*7)。これは単にカーボンフットプリントを減らすという視点ではなく、「社会全体の脱炭素に企業がどう貢献できるか」という積極的な価値提示へとつながります。

グローバルにおける「回避排出」の扱い   

「回避排出」の概念は、近年急速に国際的な報告枠組みに組み込まれつつあります。たとえば、CDPの2024年版コーポレート質問書では、初めて「回避排出」に関連する設問が追加されました。ここでは、企業が提供する製品やサービスが他社の排出削減にどう貢献しているのかを問われており、Scope 1〜3のみに依存した報告からの脱却が求められています。(*8)

実際、2014年のCarbon Disclosure Project (CDP) による気候変動に関するサーベイに回答した1,793社のうち70%が、「自社の製品やサービスの利用が他社の『回避排出』に貢献している」と報告しています。この見解は、ほとんどの業種において企業の過半数が持っており、特に通信サービス業界や公益事業セクターで顕著に見られます。(*9)

また、GHGプロトコルは、2025年のガイドライン改訂に向けて、Scope 1〜3の見直しに加え、「回避排出」に関する新たなガイダンス策定の可能性を正式に検討しています(*10)(*11)。これは、単なる自社の排出管理に留まらず、企業が提供するソリューションが社会の脱炭素にどのように寄与するのかまで報告することが求められることを意味します。さらに、WRIやWBCSDなどの国際的な研究機関も「回避排出」に関する報告書を発表しており、「回避排出(Avoided Emissions)」「比較排出影響(Comparative Emissions Impacts)」としてのフレームワークが整備されています(*7)(*9)。

一方で、「回避排出」の算定には、製品のライフサイクル評価や適切なベースライン設定が不可欠であり、算定手法の精緻化や標準化などの課題は依然として残っています。しかし、CDPやGHGプロトコルが「回避排出」関連の設問を新たに導入したように、グローバルな報告実務は確実に「回避排出」を組み込む方向へと動き始めています。実際、ダイキン工業株式会社や東レ株式会社、双日株式会社など、カーボンニュートラルなどの目標を掲げ、「回避排出」の算定に取り組む企業は日本にも存在します(*12)。 つまり、Scope 1〜3の信頼性を前提に、「回避排出」の開示を先んじて取り入れることが、脱炭素社会への貢献を明確に示し、サステナビリティ戦略の差別化に直結する時代が到来しているのです。

「回避排出」を用いた差別化戦略:事例分析   

すでに「回避排出」の概念を積極的に活用している企業の事例は複数存在します。SaaS(Software as a Service)業界のPersefoniは、自社のクラウド型カーボンアカウンティングツールを通じて、オンプレミス型のデータセンターと比較した場合の排出削減効果を明確に示しています。(*5)

製造業においては、ICCA(国際化学工業協会)が示す事例が非常に示唆的です。たとえば、自動車の車体素材を鋼材から高強度樹脂に変更することで、車両の軽量化が実現し、その結果として使用段階における燃費が改善され、CO₂排出の削減につながることが示されています。ICCAは、このような素材転換による排出削減効果を、製品の使用によって生まれる「回避排出」の代表的な例として紹介しています。(*3)

自社の商品価値・企業価値向上につなげるために   

「回避排出」の算定と開示は、今後のサステナビリティ戦略における差別化要素として極めて重要です。自社が社会全体の脱炭素にどれだけ貢献しているのかを定量的に示すことは、投資家や市場、規制当局に対する強力な説得材料となります。ただし、その実践には、適切なベースラインの設定や、最新の国際基準との整合性の確保が不可欠です。特に、この分野のルールは毎年のようにアップデートされ続けており、継続的なキャッチアップが求められます。

弊社クオンクロップは、こうした「回避排出」の算定と開示に関する国際的な議論や最新の動向をリアルタイムでフォローし、業の実務に反映できる形で支援しています。また、我々は「回避排出」に限らず、生物多様性や栄養成分の定量化といった、多様な分析手法も取り入れています。こうした複雑な国際基準や先端の分析手法も、ゼロから学ぶとなれば膨大な工数と時間がかかります。しかし、当社のソリューションMyエコものさしはそれらを効率的に整理し、実務ですぐに活用できる形で提供することが可能です。脱炭素に限らない食品エコ指標の活用により、貴社商品の新たな魅力の創出・発信にご関心をお持ちの際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

クオンクロップESG グローバルトレンド調査部

参考文献 

1.https://globalclimateinitiatives.com/en/scope-4-emissions-evitees-de-quoi-parle-t-on/ 

2.https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/scope123.html 

3.https://icca-chem.org/wp-content/uploads/2020/05/Addressing-the-Avoided-Emissions-Challenge.pdf 

4.https://plana.earth/glossary/scope-4-emissions/ 

5.https://www.persefoni.com/blog/scope-4-emissions 

6.https://librairie.ademe.fr/air/404-emissions-evitees-de-quoi-parle-t-on-.html 

7.https://www.iso.org/obp/ui/#iso:std:iso:tr:14069:ed-1:v1:en 

8.https://s26.q4cdn.com/888045447/files/doc_downloads/2024-CDP-Corporate-Questionnaire.pdf 

9.https://www.wri.org/research/estimating-and-reporting-comparative-emissions-impacts-products 

10.https://ghgprotocol.org/sites/default/files/2024-03/Corporate-Standard-Survey-Summary-Final.pdf 

11.https://ghgprotocol.org/blog/standards-update-process-frequently-asked-questions 

12.https://shizenenergy.net/decarbonization_support/column_seminar/avoided_emissions/ 

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