食品のエコスコアリングに関する
グローバルトレンド
近年、食のエコ消費やサステナブル消費に関する関心は高まっている一方で、エコスコアの見える化はまだまだ限定的であるため、意欲はあっても行動に移すことができていない消費者も多数います。本記事では、欧米を中心に普及が進むエコスコアリングとその発信に関するトレンド及び事例をご紹介します。
目次
サステナブルな食品の消費に対する消費者意識の高まり
昨今サステナビリティへの関心は国際社会で大きな存在感を持っています。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されたSDGs(持続可能な開発目標)は、昨今日常生活でも目にするようにより身近なものとなりつつあるでしょう。日本も国際社会の一員として、SDGs達成に向けた取り組みを行っています(*1)。
サステナビリティへの関心が国際社会で高まる中で、投資家の投資対象も変化してきました。かつては金銭的なリターンが中心となり、営業利益の観点で成長性の高い企業に投資が集中していた一方で、近年はESG(Environment, Social, Governance)に配慮した経営が行われているかどうかに焦点を当てたESG投資も台頭し、ESGの観点で評価を行う評価機関も多くあります。
こうした投資トレンドは、投資家自身のESGの取り組みという側面盛り上がっている一方で、ESGに配慮した経営を行っている企業が、企業の営利活動の上でも成長性が期待できるという側面もあります。すなわち、企業を選ぶ立場にある消費者においてサステナビリティの関心の高まりが見られ、こうした消費者によって選択される企業という点で、各企業がサステナビリティに配慮した経営を行う重要性は高まっています。
とりわけ、気候変動に対して関心は消費者の間で大きくなっています。
2021年のグローバルな調査では、自身が環境や自然に与える影響を大きく軽減したいと問いに対して賛同する人は全体の73%を占めており、気候変動はサステナビリティの中でも重要なアジェンダの1つと言えます(*2)。
また、2019年12月にイプソス(*3)により発表された調査によれば、ここ数年で気候変動への配慮を理由に購買行動を変えた消費者はグローバル平均で69%に及びます。この中で食品に関する購買行動の変化はグローバル平均で46%に留まっており、日本ではサーベイ対象国の最下位にあたる21%という数値になっています(*4)。
別の調査結果として、令和元年に農林水産省が発表した食品産業動態調査(*5)がありますが、この調査では、環境や社会の持続性に配慮した食料の購入意向について、「購入したい」と回答した人は全体の約30%であったのに対して、実際に購入している人は全体の約10%でした (*5から推計)。
調査方法や母集団の違いからソースにより多少のばらつきはありますが、実際に気候変動に配慮した購買行動を行っている消費者が約10~20%であることは、日本は欧米に比べて後進しているといえるでしょう。
この背景の一つには、食のサステナブル度の見える化(エコスコアリング)が広範には進んでいない現状では、「サステナブル」かつ「美味しい」食の選択肢が限られるため、特に食文化が多様で「美味しさ」を重要視する国を中心として、「美味しさ」を優先した選択が行われてしまっていることが挙げられます。
他方で、エコスコアリングが様々な食品に広がり「美味しい」かつ「サステナブル」という食の選択肢が十分に増えていくことにより、日本における消費者の行動も大きく変容する可能性があるとも言えます。
こうした消費者の課題解決を図るための様々なサービスが欧米を中心に登場してきており、次章以降では、その事例について紹介いたします。
食のサステナブル度の消費者への発信事例
トレーサビリティ型
一つ目のグループはトレーサビリティを用いたサービスです。トレーサビリティとはトレース(Trace)とアビリティ(Ability)の2つの単語が組み合わされた造語で、追跡可能性のことを指します。
EIT Food(*6)の調査では、消費者のサステナブルな食生活を妨げる要因として、どの食品がサステナブルに生産されているかがわかりづらいことや、食品のサステナビリティに対する認識は大きく分かれており企業が喧伝していることや行っていることを信用できるかどうかわからないなどが挙げられています(*7)。
「製品がいつ、どこで、だれによって作られたのか」を明らかにし、原材料の調達から生産、そして消費または廃棄まで追跡可能な状態にすること、および生産や流通に関わる業界全体で使用されています(*8)。
ここではトレーサビリティを用いたサービスを展開する事例を2つほどご紹介します。
1つ目はスイスに本社を構えるFarmer connect SA社(*9)の「ThankMyFarmer™」です。これは消費者がコーヒーやカカオ製品のパッケージについているQRコードを読み取ることで原産地と品質のトレーサビリティを可能にするプラットフォームで、IBM社のIBM Food Trustを搭載したfarmer connect®のブロックチェーン技術を基点に産地から消費者に届くまでの情報を繋ぐ仕組みを構築しています(*10)。ユーザーは手元のアプリから購買したコーヒー豆の栽培環境、ブレンドの詳細、流通過程などの情報を得られるようになっており(*11)、産地のサステナビリティと地域の繁栄を支援するプログラムを通じて支援金を寄付することで、現地の生産者コミュニティと関わる機会が得られます(*12)。日本では伊藤忠商事株式会社が2019年よりアジアを代表し同社運営委員として参画をし、2021年には出資をして業務提携を行っています。
2021年10月より「ThankMyFarmer™」は日本でもサービスが開始されています(*12)。
2つ目はオランダに本社を構えるFairfood(*13)の「Trace」です。Traceは食農企業に対するブロックチェーンを基点とした使いやすいプラットフォームであり、サプライチェーンを透明化し、農家から消費者までのサプライチェーンを辿ることができるようにしています(*14)。
同サービスでは柑橘類、カカオ、ココナッツ、コーヒー、トマト、さとうきび、パイナップル、エビ、バニラといった製品のトレーサビリティを実施しています。
しかし、トレーサビリティ型はその拡大のためには大きく2つの課題があると言われています。
1つ目は、その他の方式と比較してコストが高いという点です。トレーサビリティを行うサービスが対象としているのは、一次産品や加工品などのトレースがしやすいものが主となっています。しかしながら、消費者である私たちが選択を迫られる商品はこうした一次産品や加工品のみならず、様々な料理としても現れます。こうした複雑性を増す商品に対しては、工数のかかるトレーサビリティ技術では対応が難しく、大きく普及することは現段階では困難です。この意味で短期的な解決策にはなりがたいのが現状です。
2つ目は、消費者のサステナビリティへの貢献に関する意味合いが分かりづらいことです。トレーサビリティはサプライチェーンを辿ることを主としていますが、そのサプライチェーンがどの程度エコなのかエシカルなのかがわかりづらいために、消費者が抱えている「どれがエコな商品なのかがわかりづらい」という課題を十分に解決できているとは言えない点が挙げられます。
LCA(ライフサイクルアセスメント)型
そこで注目を集めているのが、実データと統計データを組み合わせて環境負荷を定量分析するライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment) (以下LCA)です。
LCAとは、原材料の調達から製造、加工、流通、販売、廃棄にわたる製品のライフサイクル全体を対象とした環境影響評価手法の一つです。LCA では、一製品のライフサイクルにおける各ステップをモデル化することで、生産にかかる資源やその過程で発生する廃棄物、排出物の重量を推測し、LCA独自の影響領域の指標から環境負荷を算出します。
国際規格であるISOの14040シリーズでも規定されている評価手法ですが、食品分野では商品数やサプライチェーンの複雑さから今まで大きく普及してきませんでしたが、昨今のデータベースおよびデータ処理技術の充実により、食品分野での適用事例が増えてきています。以下、LCAを用いたエコスコアリングサービスの事例についてご紹介します。
生データ型
まず生データ型の事例についてご紹介します。生データ型の事例は、Just Salad社 (*15)の「carbon label」です。Just Saladはアメリカに本社を構えるファストカジュアルレストランのチェーン店で、アメリカとアラブ首長国連邦に店舗を展開しています。
Just Saladではメニューにcarbon labelを表記しており、kg CO2e.という単位で示されています。これは“kilograms of carbon dioxide equivalent”を意味し、さまざまなGHGsの排出量を表記するために用いられる単位です。carbon labelは生産から廃棄までのあらゆる段階におけるGHG排出量を計算し表記しています(*16)。
生データ型は定量的な数値を発信できる一方で、一部の一般消費者にとって数値の解釈が難しくなっているという傾向にあります。
認証型
次に各認証機関による評価を表記する認証型の事例についてご紹介します。認証型の事例は、Carbon Trust社の「Carbon Trust’s footprint label」(*17)です。Carbon Trustはイギリスに本社を構える政府系の非営利会社であり、GHG削減に関わる各種事業(技術開発、事業開発、コンサルティング、投資)により、2007年に460万トンのCO2削減に貢献しました(*18)。
Carbon Trust’s footprint labelでは7種類のラベルを発行しています。
1つ目は当該商品が以前の商品と比べてカーボンフットプリントを何%減らしたかを示すもの、2つ目は当該商品のパッケージが以前のパッケージと比べて何%削減したかを示すもの、3つ目は当該商品がカーボンニュートラルを目指せるものであることを示すもの、4つ目は当該商品のパッケージがカーボンニュートラルを目指せるものであることを示すもの、5つ目は当該商品のカーボンフットプリントが市場の標準値と比べて著しく低い場合にその低さの程度を示したもの、6つ目は当該商品に使われた電力が再生可能エネルギー由来でScope2報告でゼロエミッションであるとされた表示されたもの、7つ目は当該商品のカーボンフットプリントが測定され認証されたことを示すものです(*19)。
認証型は、定性情報も含めた複数の評価軸で基準を満たしたかどうかについて、消費者に対して見える化を行っているという点で、消費者に対する分かりやすさがある一方で、他の認証や商品との比較が容易でなく、定量面での表現は限定的になってしまう傾向にあります。
統合比較型
最後に、統合比較型の海外の事例について2つご紹介します。
1つ目はCarrefour(*20)の行う「Eco-score」です。Carrefourはフランスを本拠地とする大手小売企業であり、自社ECサイトで販売する全食品に「Eco-score」を表示し、各食品が与える環境への影響度合を見える化、消費者の購買判断の1つとして提供する実証実験を行いました。
Carrefourはフランス政府のオープンデータソースを活用し、各食品の平均的な原材料セット(内容/比重)参照によるデフォルトスコア構築により、データ収集の効率化を行いました。その際、ラベル貼付コストを省力化できるECサイトでまずは消費者の反応を確認しました(*21)。
2つ目はBeelong(*22)の「Eco Score」です。Beelongはスイスに拠点を置く企業で、もともとは料理学校出自で、レストランシェフが環境に気を遣った料理を提供する意識を醸成させることを目的に、レストラン向けに料理毎の「Eco Score」を算出、提供するサービスを展開していました。その後小売店向けの「Eco Score」提供サービスへ拡大しています。
「Eco Score」では商品の成分を評価し、その商品のカロリーから算出した環境への影響をAからEのスコアで商品を分類しています(*23)。
エコスコアリングの海外の事例の中でも、消費者に対する訴求が最も効果的と言われているのが、この統合比較型です。
スイスの研究機関であるMDPI(*24)は、カーボンラベルの違いによる消費者嗜好の変化に関する研究報告において、6種類の異なるカーボンラベルを用意して消費者が何を重視して商品選択を行うかどうかサーベイを実施したところ、ラベルによって消費者の意思決定への影響度合いが大きく異なることが判明しました。結果では、ネガティブ情報を含む信号機の比較が消費者に最も影響を与えることがわかりました(*25)。
また、アメリカのサステナビリティブランドに関する調査コミュニティであるSustainable Brands(SB)(*26)では、カーボンラベルの効果に関する報告で、消費者の理解と行動変化を促すためには、相対的な比較表記が必要で、特にnegative labellingはpositive labellingと比べて効果的であるとされています(*27)。
このように、統合比較型は消費者に対する訴求力が高いと言われる一方で、分析対象とするデータ数が多くなる傾向にあり、十分効率的に分析を実施できる体制が求められることが課題になる傾向にあります。
自社の商品価値・企業価値向上につなげるために
本時期の事例紹介の中で、消費者に対する訴求力が最も強いと言われている統合比較型のエコスコアリングについては、日本においては、弊社が提供する「Myエコものさし」が該当します。「Myエコものさし」についての詳しい説明はこちらをご覧ください。
「Myエコものさし」では、欧米でのスコアリング手法に加えて、消費者が「習慣」として食のサステナブル消費を実行し、より継続的な行動変容につなげるための仕組みを組み込んだ消費者のスマートフォン上のサービスとして提供している点が特徴です。
また、冒頭ではサステナブル消費にまつわる課題として、消費者にとっての分かりづらさという点を挙げましたが、消費者がサステナブルの観点から実際に自社商品を選択したのかどうかが、事業者や生産者側に伝わりづらい点も課題として挙げられます。
直近では、サステナビリティに配慮した経営を行うことで、消費者の関心を引けるのかどうかわからず、どの程度、サステナビリティに配慮した商品生産やその発信に対して投資していくべきか判断に悩まれている事業者や生産者のお声をいただくことも増えてきております。
「Myエコものさし」を通じて、自社の商品のエコスコアリングを発信内容に基づく消費者の選択状況についてのトラッキング可能になるため、サステナビリティに配慮した商品生産やその発信に対する費用対効果をより具体的にすることも可能となります。
「Myエコものさし」にご関心をお持ちいただいた方は、是非クオンクロップまでお気軽にお問い合わせください。
クオンクロップESG グローバルトレンド調査部
引用
*1 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/sdgs_gaiyou_202206.pdf
*3 https://www.ipsos.com/ja-jp
*5 https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_doutai/attach/pdf/kokusan_genzai_top-17.pdf
*7 https://www.newscientist.com/article/2300305-what-are-the-obstacles-to-sustainable-eating/
*9 https://www.farmerconnect.com/
*10 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000087682.html
*11 https://www.itochu.co.jp/ja/news/press/2021/210316.html
*12 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000087682.html
*14 https://fairfood.org/en/solutions-for-a-fair-supply-chain/blockchain-tool-trace/
*15 https://www.justsalad.com/
*16 https://justsalad.com/carbonlabel
*17 https://www.carbontrust.com/
*18 https://www.env.go.jp/council/37ghg-mieruka/y372-01/mat02.pdf
*19https://www.carbontrust.com/what-we-do/assurance-and-certification/product-carbon-footprint-label
*20https://www.carrefour.com/en
*21 https://horizons.carrefour.com/sustainability/eco-score-from-idea-to-implementation
*23 https://beelong.ch/en/eco-score-beelong/