本記事では、ESG投資の世界的な興隆に伴い乱立するESG指標に関して、指標間の評価対象・手法の違いや近未来に導入が一般化されうる項目について解説します。今回は、ESGの『S』(ソーシャル)にあたる「多様性」に注目して、その評価方法は議論の現状を紹介します。

進むESG投資とその指標の複雑性

世界的にグリーン・ファイナンス及びトランジション・ファイナンスなどESG投資への関心が高まっています。2020年の世界におけるESG投資額は35.3兆ドル(約3900兆円)であり、18年比で15%増加したと、世界持続的投資連合(GSIA)が発表しました(*1)。ESG投資とは「従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資」のことを指します。

世界の代表的な投資機関が投資する企業を選ぶ際に参照しているESG指標は代表的なもので国内海外に数十とあり、それぞれの指標で数十以上の評価項目が設定されています。また、個々のESG評価機関によって、ESG情報の収集項目や重視項目が異なり、これらの指標基準は毎年アップデートされています。

この記事では、ESGの『S』(ソーシャル)に含まれる「多様性」に注目し、男女間の多様性だけでなく、年齢、国籍、性的趣向など幅広い多様性について、各指標機関が公開している評価対象・方法の違いを解説します。

主要評価機関における評価項目の違い

男女間の多様性

「男女間の多様性」という同じテーマにおいて、評価機関ごとに評価対象・評価方法が決まっています。以下では、主要評価機関における「男女間の多様性」に関連する質問項目をご説明します。

・各階層における女性比率

以下の主要機関は、会社全体における女性従業員比率の他に、管理職や役員など、階層ごとにおける女性比率を評価項目に含めており、それぞれの違いについて見ていきます。

2020年にS&Pグローバルに買収されたRobeco SAMのESG調査部門が提供する「SAM Corporate Sustainability Assessment(CSA、コーポレートサステナビリティ評価)(以下、SAM指標)」では、取締役会、管理職における女性の人数を取り入れています。SAM指標によると、ジェンダー・ダイバーシティと企業のパフォーマンスの間には相関が見られています(*2)。

MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が算出するMSCI日本株女性活躍指数は、「昇進」のフレームワークにおいて、取締役会、管理職における女性比率を評価しています(*3)。

ブルームバーグが企業の男女平等に対する取り組みや、情報開示の姿勢や実績などを評価するために開発したブルームバーグ男女平等指数(GEI)では、取締役、執行役員、管理職、Entry Level Positions(新卒含め、過去の経歴がなく入職した人)それぞれにおける女性比率、そして、社内上位10%の賃金保有者における女性比率を評価しています(*4)。

経済産業省によって女性活躍推進に優れた上場企業が選定されるなでしこ銘柄は、スクリーニング要件として、取締役、監査役、執行役員それぞれにおける女性比率/人数の回答を求めています。更に、なでしこ銘柄には、女性取締役比率が10%以上の企業に加点をする項目があり、細かな比率も見られています(*5)。

・職種別の女性比率

SAM指標では、各階層における女性比率に加え、ITやエンジニア、R&D部門で働く女性比率を評価する項目があります。

また、ブルームバーグ男女平等指数においても、IT及びエンジニアの部門における女性従業員比率を「女性リーダーシップ&人材開発」の一部として評価しています。

・新卒採用

MSCI日本株女性活躍指数では、「雇用」の枠組みにおいて、新卒における女性雇用率を評価しています。

また、なでしこ銘柄は、「経営戦略への組み込み」に関する項目において、女性正社員の採用比率/人数を、他の項目(ダイバーシティや女性活躍推進方針の明確化目標設定、女性管理職比率/人数、女性取締役比率/人数、女性正社員比率/人数)と共に評価しています。

ブルームバーグ男女平等指数では、「女性リーダーシップ&人材開発」の枠組みにおいて、新卒における女性比率を見ています。

・賃金格差

SAM指標は、役員、管理職、非管理職の3つの従業員カテゴリーに分けて、男女別の平均賃金の数値や、男女の賃金及びボーナスの格差を評価しています。

ブルームバーグ男女平等指数は、「平等な賃金&男女の賃金格差(Equal Pay & Gender Pay Parity)」の枠組みにおいて、男女の賃金格差の平均値や、賃金が社内トップ25%の従業員における女性比率などの切り口で、賃金格差を評価しています。

・多様性に関する取り組みについての情報開示

主要なESG評価機関は、女性従業員比率といった定量データのほか、多様性に関する取り組みについて、それらの情報が開示されていることも評価しています。

SAM指標は、役員の女性比率をコーポレートサイトに公開しているか否かを評価項目に含めています。

なでしこ銘柄のスクリーニング条件では、女性取締役が1名以上いて、かつ厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」で女性管理職比率を開示していることを要求しています。

MSCI日本株女性活躍指数でも、ディスクロージャー・ディスカウント(開示割引)があり、「1. 新規採用者に占める女性比率2. 従業員に占める女性比率、3. 男性と女性の平均雇用年数の違い4. 管理職における女性比率5.取締役会における女性比率」の5指標の開示比率に応じて割引が決定します。開示率が100%であれば割引なし、80%は-5%割引、60%は-10%割引、40%は-15割引、20%は-20%割引に変換され、「多様性パフォーマンスの中間スコア」(上述5指標の平均点)から点数が引かれます。

最後に、ブルームバーグ男女平等指数では、70%のウェイトを占める男女平等に関する取り組みや定量データに加え、その情報開示に30%のウェイトを置いています。

マイノリティ・その他の多様性

男女間の多様性以外にも、年齢の多様性、国籍の多様性、障がい者・LGBTQ+などのマイノリティを尊重する多様性、など様々な多様性があります。しかし、主要な評価機関では、男女以外のすべての部類を、その他のマイノリティとして包括的に見てしまっていることが多く見受けられます。

・差別やハラスメントへの対策

SAM指標は、セクシャルハラスメント/非セクシャルハラスメント防止措置の明文化や、従業員に対する職場における差別やハラスメントについてのトレーニング、事件発生後の明確な上申方法など、差別やハラスメントへの対策の有無を評価しています。

MSCI日本株女性活躍指数は、人材多様性に関する方針と経営者による監督を評価し、具体的には反差別/多様性や労働方針におけるインクルージョン(全ての従業員が仕事に参画できる機会を持つ状態を指す)や、従業員満足度の定期的な確認を行うことで、企業の戦略的に方向性や将来的意図を分析するとしています。ここにおける人材の多様性は、性別だけでなく年齢や宗教、人種なども含まれるとしています。

主要評価機関であるArabesqueでは、女性比率に加えて、企業のマイノリティへの対応も評価したいと述べていますが、LQBTQ+への配慮についてのデータの確保が未だ難しく、データがあれば包括的に考えていきたいとしています(*6)。

近未来に普及する可能性のある先進的なESG評価項目

ここでは、一部の指標で実評価が始まっており、今後スタンダードになっていく可能性のある「多様性」に関する先進的な評価項目ついて紹介していきます。

男女間の多様性

・男性育児休業取得率

なでしこ銘柄は、男性育児休業取得率・平均取得日数を、「各制度の実績」として評価しています。

また、ESG指標と同じく、投資の判断材料となる外部認証である厚生労働省の「くるみん認定」は、次の①又は②を満たすことを基準としています(*7)。

➀計画期間において、男性労働者のうち、配偶者が出産した男性労働者に対する育児休業等を取得した者の割合が7%以上であること

➁計画期間において、男性労働者のうち、配偶者が出産した男性労働者に対する育児休業等を取得した者及び育児休業等に類似した企業独自の休暇制度を利用した者の割合が15%以上であり、かつ、育児休業等をした者の数が1人以上いること

女性の育児休業取得のみならず、平成30年時点で6.16%とまだまだ水準が低い男性育児休業取得率について、注目が高まっています(*8)。

・雇用年数

MSCI日本株女性活躍指数では、「継続」のフレームワークにおいて、男性と女性の平均雇用年数の違いを評価しています。

・女性採用に関する取り組み

ブルームバーグ男女平等指数では、「女性リーダーシップ&人材開発」の枠組みにおいて、女性採用数を増やすための戦略の有無、そして具体的なプランの公開の有無を評価しています。

マイノリティ・その他の多様性

SAM指標は、マイノリティを独自に細分化し、定量的に評価しています。「労働力構成(少なくとも20%の労働力がアメリカに拠点を置く場合)」において、アジア人/黒人あるいはアフリカ系アメリカ人/ヒスパニック系あるいはラテン系/白人/先住民族/その他といった項目で人種を分類し、全体におけるシェア及び管理層におけるシェアを求めています。SAM指標では、人種の多様性は、多様な背景を持つ人材の知を集合し、企業のパフォーマンスを高めるとしています。その他に、障がい者/LGBTQI+/31歳以下/30歳-50歳/51歳以上/その他に分類した従業員比率を質問項目に取り入れています。

その他議論・検討段階のESG評価項目

以下では、ソーシャルの文脈において議論が進んでいるテーマについて紹介します。現在はESG評価機関によって導入されていないものの、将来的に多様性の評価項目の一部に含まれるようになる可能性があります。

女性活躍の推進(雇用形態および育休後復帰)

女性活躍の推進という大きなテーマにおいて、まだ主要なESG評価指標において注目されていない女性の「雇用形態」や「育休後復帰」に関して議論されています。

第一に、「雇用形態」についてデータをみると、日本人女性の非正規雇用率は55.5%(男性は21.9%)であり、過半数を占めています(*9)。聖心女子大学の論文によると、日本、韓国、イタリア、カナダの4カ国中、日本の雇用形態(正規・非正規)のジェンダー間格差が最大となっています。更に、教育程度別および収入別の変数と雇用形態が関連していることがわかっています(*10)。そのため、雇用形態という観点においても、今後ESG指標の評価項目として考慮される可能性はあるでしょう。

第二に、「育休後復帰」について、日本では育休を取得して働き続ける女性の割合は増えているものの、第1子出産を機に離職する女性の割合は、2014年時点でなお46.9%あり、依然として高くなっています(*11)。参議院の論文では、出産・育休後、正規雇用として復帰できなければ、正規雇用割合の低下にも繋がるとしています。また、女性の管理職率が低いことの背景として、離職により管理職への昇進のためのキャリアも一旦終了となることから、上記の「育休後復帰」より派生する課題としても捉えられると論じられています(*12)。

女性管理職の比率に関する評価項目が既にある中、「雇用形態」や「育休後復帰」も影響を与える変数として、今後着目されるかもしれません。

経営層における多様性理解

アクセンチュアが世界28カ国で実施した最新調査によると、平等で多様性を受け入れる企業文化を実現するには、トップの経営層が組織風土をよりオープンに変えていく「カルチャー・メーカー」(平等で多様性を重んじる組織に変革していく経営層)となることが重要であることが明らかになりました。カルチャー・メーカーとは、誰もが受け入れられ、活躍できることを最優先の経営課題に据え、権限移譲などにより部下を報いることで事業の成長やイノベーション加速させるリーダー人材を指します。

彼らが説明責任を果たし、リーダーシップを発揮している企業では、「女性社員の採用に関する目標数値」が公式発表ベースで全体平均の約2倍に達しており、女性社員の定着が進んでいることが分かっています。

一方で、カルチャー・メーカーは経営層全体のわずか6%を占めるにとどまっているとされています。経営層がカルチャー・メーカーとして、男女問わず、全社員が活躍できる取り組みを加速化させることで、世界全体で推定3兆7,000億ドルの経済効果が企業にもたらされる可能性があることが明らかとなっており(*13)、こうした経営層におけるカルチャー・メーカーの比率について今後ESG評価指標の一部として評価されることになる可能性もあると言えるでしょう。

全ての投資機関に評価される企業となるために

本記事で取り上げたように、既存のESG指標の評価項目間のばらつきや先進的なESG指標を把握した上で、複数指標に評価されることは非常に重要です。また、ESG経営や投資を通じて、自社の企業価値を高める機会を増やし、あるいは企業価値を毀損するリスクを低減したいと考えておられる企業は多数あるかと思います。ではどうやってその機会やリスクを低減することができるでしょうか。

まずは、その機会やリスクを正しく把握することが非常に重要になります。但し、正しい把握のためには長期的利益の観点で、自社だけではなく、他社や他業界を含めた多数のESGデータを比較分析していくことが必要になります。

他方、ESG指標は代表的なものだけでも国内海外に数十とあり、それぞれの指標で数十以上の評価項目が設定されています。また、これらの指標基準も毎年アップデートされています。従って、国内海外のESGトレンド及びそこから波及する自社への事業リスクや機会を体系的に「広く」把握し続けることは多くの企業にとって容易ではありません。

また、把握したトレンドやESG指標を自社の事業データと関連付けて定量的に考察し、自社の事業戦略に繋げる「深い」分析も多くのデータ処理や工数が必要になります。ESG指標の『S』という個別要素に目を向けても、様々な指標と計算手法があり、分析が複雑に構造化されています。

こうした「広く」「深い」分析アプローチを効率的に行うためには、各社がそれぞれで調べて対応するより、ノウハウを集約した専門家部隊が実行した方が不要な工程を削減し、また同じ工程を行う速度も速いため、極めて効率的かつ効果的となります。

本記事では1つのESGトレンド事例を抜粋して紹介しましたが、クオンクロップでは、外資系戦略コンサルティングファーム出身者を中心としたESG経営データ分析の専門家チーム及びAIを含む独自の分析ノウハウを活用し、各企業が「選ばれる」ために必要十分なESG活動量を把握し改善を支援する「ESG/SDGs経営度360°診断&改善支援」などのサービスを提供しております。

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クオンクロップESGグローバルトレンド調査部

引用文献

*1

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB163QV0W1A710C2000000/

*2

https://portal.csa.spglobal.com/survey/documents/SAM_CSA_Companion.pdf

*3

https://www.msci.com/documents/1296102/3556282/Japanese+methodology_Empowering+Women+Select-JPN.pdf/4fa59408-7425-40d7-a884-895240c7e057

*4

https://data.bloomberglp.com/company/sites/46/2019/05/EXEC_GEI_Index_GenderReportingFramework_PDF_V6.pdf

*5

https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/reiwajyoseikatuyakudotyousa.pdf

*6

https://arabesque.com/docs/sray/S-Ray%20Methodology%20v260.pdf

*7

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000156432.pdf

*8

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/consortium/04/pdf/houkoku-2.pdf

*9

https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/zentai/html/honpen/b1_s02_01.html

*10

https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2016/07/pdf/029-039.pdf

*11

https://www.gender.go.jp/public/kyodosankaku/2019/201905/201905_02.html

*12

https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h31pdf/201918102.pdf

*13

https://newsroom.accenture.jp/jp/news/release-20200311.htm

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