Environment

-EV化の加速-
ESGトレンドに先行投資
するテスラやアップル

世界的に自動車産業のEVシフトが加速しています。EV推進はESGの観点でも影響が大きく、先行投資を進めてきたテスラなどは大きな事業リターンを実現しつつあります。本記事ではEVシフトによるESG推進とビジネスとの関係を解説します。

脱炭素社会に向け加速するEVシフト

自動車業界におけるEV(電動自動車)化のトレンドはますます加速しています。2020年、テスラの株価は1年間で約8倍に上昇し、一時8,000億USドル(日本円で約90兆円*1)を突破してトヨタを抜いて時価総額世界一の自動車メーカーになりました(*2)。自動車産業において大半の企業がガソリン・エンジン自動車を展開しているなか、テスラは2003年の創業当初から電気自動車のみ展開し、2020年にはS&P 500種指数に組み入れられるなど、環境配慮型企業の先進事例を代表しています。また、直近ではアップルが自動運転EV「アップルカー」の開発に乗り出すことを表明し、大きな話題を集めました(*3)。

他方、既存大手メーカーもEV化の動きを強めています。独フォルクスワーゲン(VW)は2021年3月にEVの納車台数を倍増させる計画を公表しました。日系メーカーでは、トヨタは今年の決算説明会にて、2030年のEV・FCV販売目標を倍増し、ハイブリッド車(HV)とプラグインハイブリッド(PHV)を含めた形ではありますが「電動車」の拡大を追求すると発表しました(*4)。また、ホンダは2040年までに世界の新車販売を全てEVと燃料電池車(FCV)にするという意欲的な目標を打ち出しました(*5)。

EV自体の性能や価格競争力はガソリン車等に現時点では劣る中、このように、自動車業界内外からEVへの投資を強まりは、ESGの中でもEnvironmentに対する社会や投資家からの期待値の高まりの表れだと言えるでしょう。この記事では、EVシフトを例にESG投資が各企業にもたらすインパクトについて考察していきたいと思います。

EV推進とESG指標の関係性

世界的にESG投資やグリーン・ファイナンスへの関心が高まっています。ESG投資とは「従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資」のことを指します(*6)。

本記事では、ESG投資拡大の影響を受けた、自動車産業におけるEVへのシフトに着目し、ESGの中の『E』を深掘っていきます。

世界の代表的な投資機関が投資する企業を選ぶ際に参照しているESG指標は国内海外に数十とありますが、多くの指標でESGの『E』であるEnvironmentカテゴリーの評価にGHG(温室効果ガス)排出量の評価項目が採用されています。さらに詳細にみると、GHG(温室効果ガス)排出量は3種類のスコープに分けて評価されています。

スコープ1は直接排出量であり、事業者自らによるGHG(温室効果ガス)の排出であり、生産工程や事業活動における燃料の燃焼などが該当します。スコープ2は間接排出量であり、生産工程や事業活動において、他社から供給された電気、熱、蒸気等の生産時に発生している間接的な排出量を指します(*7)。

スコープ3はスコープ1,2以外の間接排出量を指し、具体的にはサプライチェーンの上流下流における排出を指し、自社製品を利用する顧客が当該製品を利用する際に排出するGHG(温室効果ガス)なども該当します(*8)。自動車業界におけるEVシフトによるGHG(温室効果ガス)排出量削減は、スコープ3において主に評価されることになります。

スコープ3に基づくサプライチェーン上のGHG(温室効果ガス)排出量評価は、多くの企業にとってその排出量を以前から把握できていたものではないため、開示できている企業とできていない企業の差が出ていますが、テスラなどはこうした観点での投資機運の高まりを先んじて捉え、事業投資を行ってきた例と言えるでしょう。

EV推進とSDGsとの関わり

ここまでESGについて触れましたが、近年、世界中で注目されているSDGsとの関係性について考察したいと思います。SDGsは社会全体や各業界が目指すゴールであることに対して、ESGは企業単位の評価指標であるため、各企業における活動の定性的な評価はSDGsを用いた議論によっても行うことができますが、目標や実績を定量的に議論するためには、ESG指標での分析や考察がより重要になります。

具体的には、SDGsは国連によって採択された、2030年までに貧困撲滅や格差の是正、気候変動対策など国際社会に共通する17の大きな目標と、17の目標を達成するための具体的な169のターゲットで構成されています。今回の自動車産業におけるガソリン車からEVへの移行は、環境問題に着目したSDGs 7.「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」の項目に該当します。

より詳細に視ると、ターゲット7a.「2030年までに、国際的な協力を進めて、再生可能エネルギー、エネルギー効率、石炭や石油を使う場合のより環境にやさしい技術などについての研究を進め、その技術をみんなが使えるようにし、そのために必要な投資をすすめる」にあるように、国際レベルでのクリーンエネルギーへの投資額の流入を促進しています(*9)。

SDGsがより持続可能な社会を目指すマクロな目標であるのに対し、ESG指標はSDGs達成に向けたよりミクロに各企業レベルの取り組みを測ります。従ってここからは、ESGの観点を用いて、各企業にどのような事業インパクトが生まれているのかについて深掘りしたいと思います。

EVを通じたESG投資が産む企業価値

テスラは「ゼロエミッション社会の実現」に向けたビジョンを掲げ、ESG投資の『E』に手堅くアプローチしています。同社の2020年販売台数は約50万台、2019年比で36%増加し、公表した経営目標を初めてほぼ達成しました(*2)。そして、2021年第1四半期の純利益は約4億4,000万ドル(日本円約500億*1)で、創業以来の最高を記録し、納車台数は前年同期の2倍以上の約18万5,000台でした(*10)。テスラの企業価値の急速な拡大の背景にCEOを務めるイーロン・マスク氏の個人的要素や同社のソフトウェアにおける強みも含まれますが、自動車業界における旧来の「規制対応最優先」のEVシフトが「ESG投資優先」へと変異していることが成功の後押しとなっています(*11)。

テスラ以外にもESGを戦略的に進めている企業が投資家に選ばれている事例についてご紹介します。VWは2021年3月にEVの納車台数を倍増させる計画を公表しました。これを好感して株価が7%近く上昇し、ESG投資の効果が目に見えます(*12)。しかし、VWもかつて2015年には、排ガス不正が発見され、直後に株価が一時43%下落し、約250億ユーロ(日本円約3兆円*13)の株式価値が失われるという甚大な損失を受けています。同社の2015年の業績は、約16億ユーロ(日本円約2,100億円*13)の赤字になりました(*14)。ESGの『G』にはESG情報の適切な開示という評価項目が多くのESG指標に含まれていますが、『E』に関する情報の不適切性から企業価値を損なった例と言えるでしょう。

日本でも進む脱炭素化

日本は2050年にカーボンニュートラル(炭素中立。二酸化炭素の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロとなる状態)の実現に向けて、2021年4月、2030年度の温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減することを表明しました(*15)。また、政府は「2035年ガソリン車の新車販売禁止」を打ち出し、ガソリン車を中心とする日本の自動車業界に大きな衝撃をもたらしました(*16)。このように環境への規制が厳しくなる中、機関投資家も気候変動対策の強化と有益な対策の実施を求めています。

様々な業界での脱炭素化の流れ

カーボンニュートラルを念頭に、車の電動化促進の他に、洋上風力発電の整備や水素社会の実現などの14項目について産学官連携で推進する「グリーン成長戦略」が掲げられています。ESG投資の重要性がその出口戦略として明文化されています(*11)。火力発電から大量の二酸化炭素を排出する電力業界は脱炭素戦略の見直しが急務となるでしょう。

それに加え、米GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)などのグローバル企業が、パートナー企業に対して再生可能エネルギーの利用を要請する動きもあり、火力電源を利用している企業も対応を迫られることになるでしょう(*17)。特にエネルギーを大量消費する鉄鋼・化学業界のような製造業各社への影響はより大きいと思われます。

また、エネルギー以外の分野での脱炭素化の動きも見られます。国際NGOオックスファムによれば、食品業界のGHG排出量は世界全体の約25%を占めると言われており、GHG排出量の削減に向けた動きも加速しています(*18)。一例として、米国では今、牛や羊から排出されるメタンガスと言われるGHG排出量を減らすために、植物を主原料とする人工肉(代替肉)の開発・製造販売を行うスタートアップ「インポッシブルフーズ」や「ビヨンド・ミート」が急成長中です(*19)。国内のハンバーガーチェーンでも、モスバーガーやロッテリアで代替肉を使用したハンバーガーを販売し、脱炭素フードが浸透しつつあります(*20)

ESG情報を企業価値向上に繋げるために

本記事で取り上げたように、先行してESG観点でイノベーションを起こす企業は、テスラのように長期的な利益に繋げていますが、ESG経営や投資を通じて、自社の企業価値を高める機会を増やし、あるいは企業価値を毀損するリスクを低減したいと考えておられる企業は多数あるかと思います。ではどうやってその機会やリスクを低減することができるでしょうか。

まずは、その機会やリスクを正しく把握することが非常に重要になります。但し、正しい把握のためには長期的利益の観点で、自社だけではなく、他社や他業界を含めた多数のESGデータを比較分析していくことが必要になります。

他方、ESG指標は代表的なものだけでも国内海外に数十とあり、それぞれの指標で数十以上の評価項目が設定されています。また、これらの指標基準も毎年進化しています。従って、国内海外のESGトレンド及びそこから波及する自社への事業リスクや機会を体系的に「広く」把握し続けることは多くの企業にとって容易ではありません。

また、把握したトレンドやESG指標を自社の事業データと関連付けて定量的に考察し、自社の事業戦略に繋げる「深い」分析も多くのデータ処理や工数が必要になります。ESG指標の『E』という1つの要素だけに目を向けても、様々な指標と計算手法があり、分析が複雑に構造化されています。

こうした「広く」「深い」分析アプローチを効率的に行うためには、各社がそれぞれで調べて対応するより、ノウハウを集約した専門家部隊が実行した方が不要な工程を削減し、また同じ工程を行う速度も速いため、極めて効率的かつ効果的となります。

本記事では1つのESGトレンド事例を抜粋して紹介しましたが、クオンクロップでは、外資系戦略コンサルティングファーム出身者を中心としたESG経営データ分析の専門家チーム及びAIを含む独自の分析ノウハウを活用し、各企業が「選ばれる」ために必要十分なESG活動量を把握し改善を支援する「ESG/SDGs経営度360°診断&改善支援」などのサービスを提供しております。

そのため、ESG経営分析のチームが社内に既にあり、ESG経営を既に推進している企業様における分析の効率化だけではなく、ESG経営分析のチームは現状ないものの、これからESG経営に舵を切る必要性を感じておられる、比較的企業規模が小さい企業様などに対しても活用いただけるサービスです。ESG経営の効率的な加速のための、科学的かつ効率的な分析アプローチにご関心のある企業様は、是非クオンクロップまでお気軽にお問い合わせください。

クオンクロップESGグローバルトレンド調査部

引用元

※同種の情報を有する引用元が複数ある場合、日本語で記述されている引用元を一例として掲載しています

*1 

2021/6/22時点の為替レートより110円/USドルで換算

*2

https://frontier-eyes.online/tesla_new-platformer/

*3

https://news.yahoo.co.jp/articles/f41fb14a29d117ad08e09aa38ab0c99581d10678

*4

https://sustainablejapan.jp/2021/05/17/toyota-2030-ev-fcv/61936

*5

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00109/042300083/?n_cid=nbpnb_dsed

*6

https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/esg_investment.html 

*7

https://www.epa.gov/climateleadership/scope-1-and-scope-2-inventory-guidance

*8

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html

*9

https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/

*10
https://diamond.jp/articles/-/270782

*11

https://diamond.jp/articles/-/263572?page=2

*12

https://jp.reuters.com/article/vw-breakingviews-idJPKBN2B90IV

*13 

2021/6/22時点の為替レートより131円/ユーロで換算

*14

https://business.nikkei.com/atcl/opinion/15/219486/051400041/

*15 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210422/k10012991191000.html

*16

https://news.yahoo.co.jp/articles/d5f458163a7139672293212b024f88ff31a29fdf

*17

https://diamond.jp/articles/-/261260

*18

https://www.sustainablebrands.jp/news/us/detail/1188053_1532.html

*19
https://jp.techcrunch.com/2020/03/18/2020-03-16-impossible-foods-confirms-500-million-fundraising-has-raised-1-3-billion-in-total/

*20
https://www.ssnp.co.jp/news/foodservice/2020/12/2020-1209-1519-14.html

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